東北大ら,VCSELのスピン制御で偏光スイッチ実現

著者: 梅村 舞香

東北大学,産業技術総合研究所,大分大学は,面発光レーザー(VCSEL)内部の電子スピンの歳差運動周波数を制御することで偏光双安定性の出現条件が制御でき,これを利用した新しい偏光スイッチング動作が可能であることを実証した(ニュースリリース)。

高速な光を情報処理に活用するフォトニックコンピューティングにおいて,光情報の長期記憶が実現できれば,情報処理のさらなる大規模化の可能性がある。そのため,偏光双安定性の高速制御が可能な光メモリの一種であるVCSELの利用が期待されている。

しかし,VCSELは特定の駆動条件において偏光双安定性が得られるかどうかはレーザーの材料や構造に依存し,その最適化が難しいという問題があった。

研究グループは,VCSELに面内方向の磁場を印加することで,電流注入された電子のスピンノイズを歳差運動させ,その周波数と偏光双安定性の関係を調べた。

通常,わずかなスピンノイズを歳差運動させてもその影響は小さいと考えられるが,歳差運動周波数(fspin)がVCSELの複屈折に起因した左右円偏光間の位相結合の周波数(flight)と一致する条件付近で共振的に相互作用する現象を活用することにより,光とスピンの相互作用を強め,これによって偏光双安定性を制御することを試みた。

印加磁場を掃引しながら測定したVCSELの出力偏光は,磁場を掃引することで,偏光状態は互いに直交する2つの直線偏光(X偏光とY偏光)の間でヒステリシスを示しながら変化することがわかった。

この結果は,磁場に比例する歳差運動周波数の制御により,偏光双安定領域の出現が制御でき,これを利用した新しい偏光スイッチングが可能であることを意味する。これまで,外部から光を注入する方法や環境温度を変化させる方法によって偏光スイッチングを実現した報告はあったが,スピンの制御によって実現した報告は今回の研究が初めてとなっている。

VCSELの偏光双安定領域の測定結果とシミュレーション結果は,周波数比fspin/flightが±1に近づくと偏光双安定となる駆動電流条件が大幅に拡大することが明らかとなり,このような特徴はシミュレーションによって再現できることが確かめられた。

この結果は,VCSELにおける偏光双安定性がスピンと深く関わっていることを予想した理論モデルを支持しており,偏光双安定性がスピンによって制御可能であることを実証している。

研究グループは,歳差運動の制御に限らず,電子スピンの電気的制御技術は近年発展しており,光メモリにスピンデバイスの技術を融合した新技術の発展が幅広く期待されるとしている。

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