高輝度光科学研究センター(JASRI)と名古屋工業大学は,大型放射光施設SPring-8のBL47XUを用いて,結晶内に形成される局所構造と非晶質内の規則構造という一見相反する物質相のどちらの局所構造も解析できる蛍光X線ホログラフィー・X線異常散乱複合計測装置を開発した(ニュースリリース)。
結晶内に形成される局所構造を可視化するには蛍光X線ホログラフィーが,ガラスに代表される非晶質の特定元素まわりの局所構造を解析するにはX線異常散乱が活用されている。一方で,この二つの測定手法で解析を行なうには別々の実験装置・ビームラインで実験を実施する必要があり効率的とはいえなかった。
研究グループは,蛍光X線ホログラフィー実験において,これまで計測の難しかったゼオライトについてカルシウム周りの局所構造の可視化に成功した。ゼオライトは一般に明瞭なホログラムが形成されず蛍光X線ホログラフィーでの像再生に難がある材料の一つだった。
この装置ではゼオライト結晶からのBragg反射をX線異常散乱で利用する検出器軸を活用して測定することで,容易にかつ精密にゼオライトの結晶方位を決定することが可能となり,より精度の高いホログラム取得を可能とした。
これは,2つの計測手法を1つの装置にまとめたことによる相乗効果といえる。さらに,装置全体の剛性や回転軸の精度を向上させたことで,集光素子との組み合わせにより,これまで不可能であった大きさ10μmほどの微小試料に対しても蛍光X線ホログラフィーによる構造計測の道がひらけた。
X線異常散乱実験では,高輝度アンジュレーター光に加え,フッ化リチウムを分光結晶とするエネルギー分解計測システムを3連装化することによって,非晶質中の規則構造を元素選択的かつハイスループットに抽出できるようになった。
X線異常散乱法は,注目する元素のX線吸収端近傍の2つのエネルギーのX線を用いてそれぞれのX線散乱パターンを測定し,その差分をとることで注目元素に関連する情報のみを抽出する。この装置は,分光結晶による散乱X線のエネルギー分解計測を採用しているため,これまで問題となっていたコンプトン散乱や共鳴ラマン散乱など余計な成分を取り除いた,弾性散乱のみを取り出した高精度計測が可能。
今回の研究では,SPring-8の世界最高性能の放射光を利用することで,銀元素を対象としたX線異常散乱実験を実施した。もちろん,X線異常散乱においても集光素子と組み合わせた微小領域計測が可能となっている。
研究グループは,多くの結晶・非晶質の機能性材料の解析・研究開発に活用されることが期待される成果だとしている。