東北大ら,見えない毒性ガスの発光検出材料を開発

東北大学,九州大学,名古屋大学,京都大学は,工業製品や医薬品生産に必要でありながらも工場周辺の環境や生産現場での人体に対して危険性の高い二硫化炭素(CS2)を高感度に検出可能な材料開発に成功した(ニュースリリース)。

我々の生活には多くの危険物質が多く存在し,特にほとんどの毒性ガスは目
視では認識できないため,これらを効率良く選択的に捕捉し,さらに簡便かつ高感度に検出可能な技術開発は環境・健康問題の観点から重要な課題となっている。

研究グループは,金属イオンと有機配位子から構成される金属−有機構造体(MOF)の構造変化に関する情報を顕著な発光変化として発信可能な金(I)錯体を用い,新たな発光性MOFを開発した。合成した化合物は知恵の輪構造を有しており,種々の同定実験・量子化学計算から金(I) ···金(I) 間の相互作用に起因したMMLCT由来の発光を示すことが分かった。

この化合物に対して様々な小分子(水,アルコール類,揮発性有機化合物などの溶媒分子,窒素(N2)や水素(H2),酸素(O2),メタン(CH4),一酸化炭素(CO),一酸化窒素(NO),二酸化炭素(CO2))などのガス分子に対する応答性を調査すると,これらの分子に対しては吸着を示さない一方で,CS2の場合のみ選択的に吸着する「特異な分子ふるい」として機能することが見出された。さらに,CS2吸着に伴って10秒以下という高速かつ顕著な発光消光が観測された。

CS2に対する良好な選択性はCS2/CO2混合ガス条件下での分離実験でも確認され,発光性MOFは150ppm程度の低濃度条件でも迅速にCS2を検出可能であることが分かった。分離実験ではガラス管の中に詰めたサンプルの段階的な発光消光が観測され,選択的なCS2吸着プロセスのリアルタイム可視化が可能であることを示した。

さらに,吸脱着サイクル安定性はCS2吸着/脱着プロセス中のin situ(その場)発光測定で調査され,10サイクルの吸着/脱着プロセスに渡って高速な発光のON-OFFが観測された。一度CS2が吸着したサンプルからのCS2の除去も,室温での脱気のみで可能。以上より,研究グループで開発したMOFのCS2に対する優れた耐久性,リサイクル性が実証された。

研究グループは,この研究で開発した材料はCS2に対するエネルギー効率の良い再生とリサイクル性を示すことも明らかになったため,今後は薄膜化によるデバイス化や検出感度の向上に取り組むことで,次世代の環境・健康問題に貢献する新たな高感度ケミカルセンサーへの応用展開が期待されるとしている。

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