島根大学,熊本大学,東北大学,九州シンクロトロン光研究センター,高輝度光科学研究センター,茨城大学,理化学研究所,ハンガリー,フランスの研究者は,金属ガラスを液体窒素温度(およそ摂氏マイナス196度)と室温の間を繰り返し上下させることによって,構成する原子の並び方やその運動が大きく変化することを,大型放射光施設SPring-8の放射光X線で明らかにした(ニュースリリース)。
放射光X線を用いると,通常より高いエネルギーのX線を用いた高エネルギーX線回折を行なうことができるばかりでなく,そのエネルギーを細かく変化させることができ,それによってX線異常散乱法を用いて構成元素による散乱の強さをコントロールし,それぞれの元素のまわりの原子の配列を知ることができる。
研究では原子配列や弾性的性質に不均質性が大きいと考えられているGd65Co35金属ガラスを対象とした。この金属ガラスは重い希土類元素のガドリニウム(Gd)と軽い遷移金属元素であるコバルト(Co)からできている。
銅製の水冷ロール上に高温の液体試料を吹き付けてリボン状の金属ガラスを作製した。およそ摂氏マイナス196度の液体窒素中と室温のエチルアルコール中を1分おきに40回繰り返してつけることにより温度を上下させ,試料に極低温若返り効果を起こした。
放射光X線を用いた高エネルギーX線回折およびX線異常散乱法によって得られた実験結果を,逆モンテカルロ法を用いて解析し,各構成元素のまわりの個別な原子の並び方を求めた。
また,X線非弾性散乱法を用いて,金属ガラス中に縦波音波を生じさせるエネルギーとそのピーク信号の幅を求め,ガラスの弾性的な性質の不均質性が極低温若返り効果によってどのように変化するのかを検討した。
この実験より軽いCo元素が温度の上下を繰り返すことにより,Gd原子の直近の位置からやや離れた場所に若返りによって移動することがわかった。また,放射光X線を用いたX線非弾性散乱法によって,金属ガラスはミクロに見て速く振動する硬い部分と遅く振動する柔らかな部分があるが,その不均質さが若返りにより大きく増大することを見出した。
これにより,ガラスはそのミクロな構造,弾性不均質性がその熱履歴によって大きく変化する若返り現象を起こすものであるという,結晶物質では全くあり得ないことを実験的に明らかにすることができた。研究グループは,ランダム系の科学に新しい見地を提示することができた成果だとしている。