東北大学と大阪大学は,従来の雲母(マイカ)の基材をベースとしたパール顔料の代替品として,エネルギー消費が少なく,120℃以下の環境にやさしい水熱プロセスを用いて,基材フリー(不要)型新規着色パール顔料の開発に成功した(ニュースリリース)。
パール顔料のうち,板状粒子を使用した基材フリー型パール顔料は,製造が比較的簡単かつ低コストで注目を集めている。一方で,物質としての選択肢は限られており十分な光沢効果を発揮しにくいという課題があった。
バナジウムオキシリン酸塩の VOP (VOPO4・2H2O)および HVP (H0.6(VO)3(PO4)3(H2O)3・4H2O)は,層状構造を有する材料であり,光沢のある基材フリー型の着色パール顔料として利用される可能性を秘めている。特に,パール効果を高めるには,10µm以上の粒子サイズと,アスペクト比(粒子の幅と厚さの比)が50:1以上であることが望ましいとされている。
研究では,大粒子かつ薄板状のバナジウムオキシリン酸塩を,エネルギー消費が少なく,環境にやさしい簡便な水熱合成法を用いて合成した。このプロセスでは,溶液中における溶解―再析出プロセスを促進するために,様々な酸化還元性を持つ添加剤を加えた。
これにより,初めて220µmを超える大きな単結晶粒子の合成に成功した。また,粒子のサイズを制御することも可能であることが明らかになった。
100°C以下で合成されたHVP板状粒子は,長さ約40µm,幅約34µmの滑らかな表面を持っている。その厚さは約120nmであり,計算されたアスペクト比は約308となった。また,電子顕微鏡観察により,これらの粒子が単結晶であることが確認された。
一方,120°Cの水熱合成条件で得られたHVP粒子は,表面が滑らかで,粒子サイズはさらに大きく,約147µm×144µmに達した。また,HVPは多層構造から成り,最小単層厚さは約75nm,アスペクト比は約1960に達することが分かった。
この方法により,120°C以下という低温環境で,基材を使用せずとも高い光沢特性を発現するパール顔料を合成することに成功した。合成した顔料は黄色や緑色などの鮮やかな着色効果を持ち,新規のパール顔料として期待されるという。
研究グループは,この手法では合成される板状粒子のサイズが制御可能であり,有機溶剤中に安定に存在するため,化粧品,自動車塗料,プラスチック製品,加飾製品など,幅広い分野での活用が期待されるとしている。