東京科学大学の研究グループは,鉛-硫黄結合を有する配位高分子の新たな合成法を確立し,これを用いた固体光触媒で,可視光エネルギーによる二酸化炭素からギ酸への変換効率を従来の約10倍まで高めることに成功した(ニュースリリース)。
光エネルギーを用いてCO2を再資源化する光触媒は,地球温暖化や炭素エネルギー資源の枯渇といった難題に対する有望な解決策として,40年以上も前から広く研究されている。特に,資源制約の小さい普遍元素を活用して高効率に働く固体光触媒の開発は重要な課題となっている。
研究グループは,これまでに配位高分子[Pb(tadt)]nが可視光により,CO2をギ酸へ高い選択率で変換できる光触媒となることを発見していた。しかし,可視光によって[Pb(tadt)]nに生じる電子と正孔の利用効率が低く,みかけの量子収率も3%未満にとどまっていた。
光触媒の内部での電子と正孔の利用効率を高めるには,光触媒粒子を高品質化する必要があるが,[Pb(tadt)]nについては合成法に改良の余地が残されていた。
研究グループは,マイクロ波を援用した溶液合成法により,繊維状の[Pb(tadt)]nが得られることを見出した。合成温度や時間を最適化した結果,この繊維状[Pb(tadt)]nは従来法で合成した柱状の[Pb(tadt)]nと比べて高い比表面積を持ち,電子と正孔の再結合中心となる表面欠陥も少ないことがわかった。
そのため,繊維状[Pb(tadt)]nは99%以上の高いギ酸生成選択率を維持したまま,25%という高いみかけの量子収率でCO2をギ酸へ変換できることがわかった。この値は,可視光でCO2をギ酸へ変換する光触媒の中では世界最高値となっている。
さらには,同じ[Pb(tadt)]nを導電性基板上に固定してCO2電解に用いたところ,300mAcm–2の高い電流密度でCO2をギ酸へと変換できることもわかった。この時のギ酸生成のファラデー効率は90%以上に達し,こうした高速電解条件でも[Pb(tadt)]nは高いギ酸生成選択率を維持できることが示された。
また,従来の鉛系の電極触媒では,高電流を流す条件では水の還元による水素生成が併発し,CO2還元の選択率を低下させることが問題になっていたが,[Pb(tadt)]nを用いた場合には水素生成はほとんど起きず,CO2還元の電極触媒として有用であることがわかった。
研究グループは,今後のさらなる材料探索と合成法の最適化によって,より小さなエネルギーの印加で駆動する新たな触媒系の構築が期待できるとしている。