早稲田大学と東北大学は,世界で初めて銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212)の紫外・可視光領域における大きな光学的異方性の起源と結晶構造の関連性を明らかにした(ニュースリリース)。
Bi2212は,その超伝導転移温度がバーディーン・クーパー・シュリーファー(BCS)理論で説明される限界を超えるほど高いため,広く研究が進められて来た。超伝導の発現に重要なクーパー対の形成に関与するメカニズムは,BCS理論における電子-フォノン相互作用では説明できず,この分野における未解明の課題の一つとなっている。
銅酸化物高温超伝導体の構成要素であるCuO2層は,高温超伝導体において最も重要な役割を果たすと広く認識されており,その物理的特性は,さまざまな角度から集中的に調査されている。
研究グループも,一般化高精度万能旋光計(G-HAUP)を使用して,紫外・可視光領域におけるBi2212のc軸に沿った光学的異方性の波長依存性を測定したところ,a軸およびb軸の格子定数はほぼ同じであるにも関わらず,大きな光学的異方性のピークが観察されることが明らかになっていた。
今回研究グループは,フローティングゾーン法によりさまざまなPb含有量のBi2-xPbxSr2CaCu2O8+δ単結晶を育成し,紫外・可視光をそれら結晶に透過させることで,透過測定によってBi2212の特徴的な「うねり構造」が光学的異方性に与える影響を調べた
その結果,Pb含有量を増加させることで,光学的異方性の大きさが単調に減少することから,光学的異方性の起源がその「うねり構造」に関連していることを明らかにした。
Pb置換によって光学的異方性が大幅に低減されることで,光学活性や円二色性のより正確な測定が可能になることから研究グループは,高温超伝導のメカニズムに関する議論において重要な対称性の破れの存否を探求することが可能となるとしている。