北海道大学の研究グループは,南極にすむ細菌がプロテオロドプシンと呼ばれる光受容体タンパク質を介して極限環境の中を生き抜く仕組みの一端と,それが低温環境に適応したプロテオロドプシンの機能によって支えられていることを明らかにした(ニュースリリース)。
植物の光合成のように,生物は太陽から降り注ぐ光を情報やエネルギーに変換して利用している。しかし,2000年以降,プロテオロドプシン(PR)と呼ばれる光受容体タンパク質が地球上のあらゆる環境にすむ細菌から多数発見され,光合成と並んで光エネルギー変換を担い,生態系のエネルギー循環に寄与する分子として,その重要性が認識されてきた。
PRは光を受けて活性化すると,細菌の細胞の外側に水素イオン(H+)を汲み出す。これにより,細胞内外にH+の濃度勾配が作られる。H+濃度勾配は,他の様々なタンパク質の機能を駆動する力(H+駆動力)となる。
このように光を使ってATPを合成するPRの役割は,光合成とは全く異なる光エネルギー変換の仕組みである一方,天然の細菌がPRを介して,実際にどのように光を利用しているのかを実験によって示した例 は少なかった。
これは,細菌を培養することが極めて難しいため。そこで研究グループは今回,PRを持ち,実験室で安定して培養できる天然の細菌として,南極の赤雪から単離した好冷菌Hymenobacter nivis P3Tに着目した。
研究では,PRの機能と細菌の細胞応答を結びつけることを目的に,H. nivisのPR(HnPRと略)の光照射によるH+駆動力の生成(H+輸送活性測定),細胞内ATP合成,光照射下での細胞増殖について波長依存性を調べ,HnPRの吸光特性(吸収スペクトル)との一致性を確かめた。
その結果,H. nivisは光を受けるとHnPRを介してH+駆動力を作り,ATP合成酵素がそれを使ってATPを合成し,できたATPが細胞の増殖に使われるという一連の生物応答を,実験によって示すことができた。
また,H. nivisはHnPRを発現していることから,H. nivisの細胞膜片を精製して,その中に含まれている天然のHnPRの光化学反応を,フラッシュフォトリシス法を用いて調べた。その結果,HnPRが南極の低温環境でも,十分に速く機能するH+輸送タンパク質であることがわかった。
研究グループは,HnPRの分子機能と天然宿主であるH. nivisの光依存的な生物応答との関連を実験的に示すことに成功し,生態系のエネルギー循環の具体例を示すことができたとしている。