東京科学大学の研究グループは,キラル空間を持つ分子カプセルの新構築法を開発した(ニュースリリース)。
生物はキラルな糖やアミノ酸を活用することで,DNAやタンパク質などのキラルな生体構造を精密に構築している。これらにより,生命活動に必須なキラル情報の伝達や保持が効率的に行なわれている。
キラル情報を人工的に伝達する方法として,キラル空間の活用が注目されているが,複雑な分子設計や多段階の合成操作が必要だった。
そこで研究では,柔軟な人工キラル空間を持ち,水中で利用できる分子カプセルの構築法の開発を目指した。キラル分子の一つであるテルペン(具体的にはパラメンタン)は植物由来であり,キラル源として安価に入手できる。
また,糖やアミノ酸と異なり,疎水性と剛直性の高い分子骨格を有する。しかしこれを利用した人工キラル空間の構築は未開拓であった。
そこで研究グループは,複数のテルペン骨格に囲まれた空間を持つ分子カプセル(テルペンカプセル)を作製することで,内包したさまざまな色素分子のキラル光学特性が誘起できると考えた。
研究では,2つのキラルなテルペン骨格を導入した湾曲型の両親媒性分子を新たに設計・合成した。この分子は水中で,疎水効果を駆動力に自己集合して,瞬時かつ定量的に約2nmの分子カプセルを形成した。
カプセルは内部に柔軟なキラル空間を持ち,さまざまな形状の蛍光性色素分子を効率良く取り込んだ。得られた内包体では,色素分子に由来したキラルな分光学的性質が特異的に観測され,カプセル内での効果的なキラル情報伝達を達成,色素内包体は円偏光発光(CPL)を示した。
研究グループは今後,この分子道具を応用して,精密合成を必要としない簡便な操作で,多様な色素分子だけでなく,高分子材料や金属触媒などにキラル情報を自在かつ高効率に伝達できる分子カプセルを開発していきたいとしている。