豊田中央研究所は,二酸化炭素(CO2)から炭素原子3つで構成されるアルコールであるプロパノール(C3H7OH)を合成する新たな分子触媒を開発した(ニュースリリース)。
CO2を電気化学的に還元して有用物質に変換する「CO2電解」の合成物として一般的なのは一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)といった炭素原子1つからなるC1化合物だが,よりエネルギー密度の高い多炭素化合物の合成が期待されている。
一方,化学反応のカギを握る触媒として,単分子として作用する分子触媒に注目が集まっている。分子触媒は精密な設計が可能なため,CO2電解で利用価値の高い化合物を高効率に合成できる可能性を秘めている。しかし,分子触媒は構造が不安定で反応中に分解されるといった欠点もあり,これまでにC2化合物の報告が数例あるのみで,C3以上の化合物の合成に成功したという報告は世界でも例がなかった。
同社は長年の人工光合成研究の中で,CO2電解技術や分子触媒に関する知見を蓄積しており,今回CO2からC3化合物であるプロパノールを合成する,新たな分子触媒の開発に成功した。
この研究では炭素原子間の結合を促進する触媒の開発を目指し,いくつかの金属錯体を合成した。このうちCuを核とする2つの金属錯体が臭素(Br)元素によって架橋された構造を持つ「Br架橋二核Cu(Ⅰ)錯体(CuBr-4PP)」が,C3化合物であるプロパノールを合成する分子触媒として機能することを発見した。
CuBr-4PPはプロパノールだけでなく,C2化合物のエタノール(C2H5OH)やエチレン(C2H4),C1化合物のメタン(CH4)など様々な化合物を合成した。現時点ではプロパノールのみを選択的に合成するには至っていないが,分子触媒によってCO2からC3化合物を合成したという事例は世界初の報告となる。
CuBr-4PPの反応メカニズムについても,大型放射光施設SPring-8の放射光X線を用いた「オペランドX線吸収微細構造解析」により,CuBr-4PPがCO2電解反応中も分解しないことを確認した。
また,CO2がどのような中間合成物を経てC3化合物になるのかを「オペランド表面増強ラマン分光分析」によって突き止めた。こうした一連のメカニズムは数理的なシミュレーションによっても裏付けられ,CuBr-4PPがC3化合物合成の分子触媒として機能することを検証した。
同社はこの成果について,CO2を有効活用する次世代触媒の開発に貢献する成果だとしている。