理化学研究所は,手のひらサイズで重さ500g以下,ピーク出力が10Wを超える高輝度かつ周波数可変なテラヘルツ波光源を開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波は,光波と電波の中間に位置する周波数帯で,テラヘルツ波を用いた非破壊検査装置では、小型軽量ながらも高輝度な光源が重要であり、異なる対象物に適した周波数を選択できることが求められている。
研究グループは,2017年に発見したバックワード・テラヘルツ波パラメトリック発振の原理に基づき,マイクロチップパルスレーザーと周期分極反転結晶を使用し,手のひらサイズの筐体に必要最低限の光学系を組み込むことに成功した。
この技術により,複雑な共振器構造を省略し,逆方向に伝搬するテラヘルツ波を発生させることができる。光源はスマートフォンサイズで,重さ453gと持ち運びが可能であり,ケーブルを接続することで容易に動作する。
この光源では,装置内部で発生させたテラヘルツ波を,筐体側面に配置したテラヘルツ波用レンズを通して取り出す。テラヘルツ波のパルス幅が0.60ナノ秒で,ピーク出力は15Wに達する。従来の半導体テラヘルツ波光源のミリワット級の出力と比較して数桁も高く,測定器が過負荷になるため減衰フィルターが必要となるほどの性能を持つ。
さらに,光源には自動制御機構が搭載されており,励起光の光軸に対して周期分極反転結晶を回転させることで,0.29THzから0.35THzの範囲で周波数を同調させることができ,60GHzの可変幅を実現した。この周波数可変幅は,光干渉断層測定を行なう場合奥行き分解能で約2.2mmに相当する。
また,バックワード・テラヘルツ波パラメトリック発振のテラヘルツ波周波数は,使用する周期分極反転結晶のパラメーターを変更することで,0.2THzから1THzの範囲で得られるという。
この光源を反射イメージング光学系とともに小型ブレッドボードに組み込み,ロボット搭載を想定して測定サンプルの位置を固定したまま,テラヘルツ波光源を含めた計測光学系全体を移動させ,実計測の場面に合わせた反射イメージング計測を行なった。
その結果,タオル地繊維布で覆った金属パターンを明瞭に可視化し,光源の高輝度と安定性が証明された。研究グループ,今回開発したテラヘルツ波光源の高輝度特性,出力安定性,および堅固性を示す成果だとしている。