産業技術総合研究所(産総研)は,溶融した金属が流動しながら凝固する様子をX線で可視化する装置を開発した(ニュースリリース)。
一般的に,凝固過程を可視化する方法として光学観察があるが,金属は不透明であるため,光学装置で合金内部の凝固過程を観察することはできない。合金の凝固観察には,放射光を利用したX線イメージング技術が有用だが,放射光X線の特性と装置の構造上,観察範囲は数十mm2以下に制限される。
そこで研究グループは,アルミニウムのアップグレードリサイクルプロセスを高精度に制御するためのプロセス設計を目的として,電磁撹拌下における不純物元素を含む結晶相の成長挙動を数十cm2以上の広い視野で可視化するX線イメージング装置を開発した。
放射光X線イメージングは,X線の広がりが小さいため,大面積での観察には適していない。また,厚さ数百µm程度の薄い試料を用いるため,溶融した試料の流動状態を作ることは難しい。そこで,X線源,電磁撹拌装置およびX線検出器を従来の放射光X線イメージングでは難しい鉛直方向に配置することにより,流動する溶融金属のX線透過像を大面積かつ高解像度で撮影する方法を考案し,撹拌凝固過程を可視化する装置を開発した。
装置全体はX線源,フラットパネル型X線検出器,制御PC,電磁撹拌装置,インバーターおよびるつぼで構成される。X線検出器には,産総研が独自に開発した3840×3072画素の解像度を持ち,画素サイズが83µmのフラットパネル型検出器を使用した。
FODおよびFIDをそれぞれ140mmおよび800mmになるようにX線源,るつぼおよびX線検出器を配置した。この条件でX線イメージング装置を構成すると,観察視野は55.7×44.5 mm2になるため,径50mmのるつぼに入れた溶融金属全体の透過X線画像を撮影できる。
開発当初は,透過X線画像の水平方向にノイズが現れ,晶出した結晶と溶融金属の境界が不明瞭となったが,るつぼ材質の変更や電磁シールドの追加など装置改良を進めることにより,ノイズ量の低減と空間分解能の向上を達成した。
この装置を活用することで,電磁撹拌に伴う凝固偏析を意図的に制御して,より高効率に鉄を含む不純物相をスクラップ合金から分離するプロセスの設計が可能になった。将来的に,アルミニウムのアップグレードリサイクルの高度化に役立つという。
研究グループは今後,空間分解能のさらなる向上および撮影速度の高速化を進め,金属リサイクルのプロセス開発だけでなく,鋳造プロセスや金属材料の開発に役立てていくとしている。