京都大学の研究グループは,ゲノム編集技術を用いて,モデル緑藻クラミドモナスの変異体を作成し,細胞外タンパク質である炭酸脱水酵素CAH1の具体的な機能を明らかにした(ニュースリリース)。
光合成は,植物や藻類が太陽光を利用してCO2と水から炭水化物を合成する地球上の生命活動の基盤となるプロセスであり,その効率はCO2の取り込みメカニズムに大きく依存する。
陸上植物は,葉の表面にある気孔を開閉してCO2を取り込むが,水中に生息する藻類は,CO2の拡散速度が大気中の1万分の1に低下する環境に直面している。加えて,CO2の多くが重炭酸イオン(HCO3–)として存在するため,CO2の取り込みがさらに困難となる。
このような不利な環境に対応するため,多くの藻類はCO2濃縮機構(CCM)を進化させた。CCMは,HCO3–を細胞内に取り込み,炭酸脱水酵素によってCO2に変換し,CO2固定酵素ルビスコを効率的に機能させる複雑な仕組みとなっている。
今回の研究では,最先端のゲノム編集技術CRISPR-Cas9を用いて,クラミドモナスのCAH1遺伝子を欠損させた変異体を作成し,その機能を詳しく解析した。結果として,特にアルカリ性環境(pH7.8)において,CAH1欠損変異体では光合成効率が著しく低下することが明らかとなった。
また,細胞外に存在する炭酸脱水酵素の機能を阻害する薬剤を正常な細胞に与えると,CAH1欠損変異体と同様に光合成効率が低下したが,外部から炭酸脱水酵素(ウシ由来)を加えることでCO2親和性が野生型レベルまで回復することが確認された。
これにより,CAH1はアルカリ性環境でHCO3–からCO2を生成し,細胞内へのCO2供給を促進する重要な役割を果たしていることが示された。
この研究は,藻類のペリプラズム空間に存在する炭酸脱水酵素CAH1の役割を初めて具体的に解明し,CCMの理解を大きく前進させるもの。この発見は,藻類を利用した環境保全やバイオテクノロジーへの応用にも重要な影響を与えると期待される。研究グループは今後,さらに広範な分野での応用が模索されることが見込まれるとしている。