総研大,可搬型積分球積雪粒径測定装置で広域調査

総合研究大学院大学の研究グループは,東南極氷床沿岸から内陸約1000kmのルート上で,積雪粒子の比表面積(積雪粒径の指標)を約2150箇所の雪面で観測し,広域分布を明らかにした(ニュースリリース)。

氷床は日射を反射し,気候システムにおいて重要な役割を果たすが,温暖化による積雪の変質や表面融解が進むと,積雪が吸収する日射量が増え,温暖化が増幅される。南極氷床内陸部では,不純物の濃度が少なく,積雪粒径が表面アルベド(地表面が受けた太陽放射エネルギーのうち,反射されるエネルギーの割合,反射率)を支配する主因だが,これまでの観測は限られていた。

今回,研究グループは,可搬型積分球積雪粒径測定装置を初めて南極に導入した。非球形粒子の大きさの指標として,同じ比表面積(specific surface area : SSA)をもつ球の半径を求め,これが光学的に等価な積雪粒径に近いという考え方によるもので,積雪アルベドとの相関もいい。

その原理は近赤外光の光散乱を用いた光学的手法によるもので,市販品もあるが重量が約20kgと重く,かつ積雪を専用容器にサンプリングする必要があり,短時間での移動観測が困難だった。そこで研究グループのメンバーは,同様の原理で小型かつ積雪面や断面の直接計測が可能な,可搬型積分球積雪粒径測定装置 (HISSGraS)を開発した。

HISSGraSは波長1310nmのレーザー光源を内蔵する積分球の一部を積雪試料で置き換えることにより,試料の反射率を測定する。重量は従来製品の約1/20,単3乾電池4本で動作する。研究グループはこのHISSGraSを用いて短時間で効率的に観測を行ない,積雪の比表面積の広域分布を明らかにした。

観測の結果,沿岸から内陸にかけて標高が上がり,気温が低下しても,積雪比表面積に有意な増減の傾向は見られなかった。しかし,内陸深部では積雪比表面積が増加し(粒径が小さくなり),雪面形態や気象現象によって比表面積が大きく変動することが確認された。

特に,新雪は大きな比表面積を示したが,風速が5ms−1を超えると新雪の堆積が抑制され,光沢雪面では小さい比表面積が観測された。この結果から,南極氷床表層の積雪比表面積は,気温だけでなく,降雪頻度や風による堆積抑制も大きな影響を与えることが示された。

研究グループはこの研究について,衛星観測や気候モデルの検証データとして有用であり,長期的な温暖化の影響評価にも役立つとしている。

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