名古屋大学と独ミュンスター大学は,青色光の照射下で高い反応性を発揮する新しい分子性光触媒「双性イオン型アクリジニウムアミデート」を開発した(ニュースリリース)。
炭素-水素結合から水素原子を引き抜き,炭素ラジカルを生成する反応は,さまざまな有機化合物を無駄なく変換できる重要な技術。特に,光励起によって発生するヘテロ原子のラジカルを活性種とするラジカル触媒を利用して水素原子を引き抜く方法は,温和な条件で効率的に反応を促進できるため盛んに研究されているが,ここでは適切なラジカル触媒の選択がポイントとなる。
しかし,従来の触媒は酸素ラジカルや硫黄ラジカルを活性種とするものに限られていたため,反応の範囲も限定されていた。一方,窒素ラジカルは高い反応性を持つが,その発生が困難であり,光触媒としての利用は困難であった。
これに対し,研究グループは,光励起による電子移動で窒素ラジカルを発生させる戦略を考案し,そのために,光レドックス触媒として知られるアクリジニウムカチオンにアミデートアニオンを結合させた「双性イオン型アクリジニウムアミデート」を設計した。
この分子は青色光を吸収すると,アミデートアニオンからアクリジニウムカチオンへの電子移動が起こり,反応性の高いアミジルラジカルと安定なクリジニルラジカルからなるジラジカルに変化し,水素原子の引き抜きを担う光触媒として機能する。
実際に,この触媒を用いて,シクロヘキサンなどの安定した炭化水素化合物から水素原子を引き抜き,発生した炭素ラジカルをオレフィンに付加させるアルキル化反応を青色光の照射下で効率的に進行させることに成功した。
また,溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを使用することで,反応効率が飛躍的に向上することを発見した。理論計算により,この現象はアミデートアニオンとヘキサフルオロイソプロパノールが水素結合を形成し,三重項励起種が発生しやすくなるためであることが明らかとなった。
この研究は,光励起によって効率的にアミジルラジカルを発生させる新しい分子設計の有効性を示しており,設計されたアクリジニウムアミデートは分子構造の調整が容易で,光触媒としての特性を細かく制御することが可能だとする。
今後,この触媒を活用して,炭素-水素結合に限らず,多様な結合をターゲットとした新しい化学反応の開発が期待されることから,研究グループは,分子設計の自由度を活かして新たな機能を付与する研究が進展することで,有機合成技術のさらなる発展が期待されるとしている。