筑波大学,北陸先端科学技術大学院大学,慶應義塾大学は,色中心と呼ばれる不純物を導入したダイヤモンド結晶に超短パルスレーザー光を照射し,その反射率の変化を精密測定した結果,ポーラロン(電子と結晶格子の振動をまとめて一つの粒子とみなした準粒子)が色中心の周りに飛び出して協力しあうことを発見した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは炭素原子のみで構成される結晶であり,極めて高い硬度と優れた熱伝導率を持つため,研磨材や放熱材料など多岐にわたる用途で使用されている。しかし,近年ではダイヤモンドの量子センサーとしての可能性が特に注目されている。
中でも,窒素―空孔(NV)中心と呼ばれる特定の欠陥は,量子センサーとしての応用が期待されている。このNV中心は,高い空間分解能と感度を持つため,細胞内計測やデバイス評価に非常に有効。NV中心の周囲に存在する炭素原子格子は,ヤーン・テラー効果によって歪み,これがNV中心の電子状態や発光特性に影響を与えることが確認されている。
しかし,その格子歪みに関しては,準粒子ポーラロンの存在が示唆されるものの,電子と格子振動の相互作用の観点からは十分な解明がなされていなかった。
研究では,極めて不純物が少ない高品質のダイヤモンド結晶に窒素イオン(14N+)を4種類の線量(ドーズ)で注入することで,NV中心の密度を制御しながら表面近傍40nmの深さに導入し,そのナノシートにおける炭素原子の集団運動(格子振動)を精密に調査した。
フェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法により,ダイヤモンド表面の反射率の変化を高精度で計測した結果,40テラヘルツという非常に高い周波数を持つ格子振動が検出された。また,NV中心の密度を変化させることで,格子振動の振幅が約13倍にも増強されることが明らかとなった。
この増強は,レーザーパルスの強い電場下で起こるNV中心近傍のフレーリッヒ相互作用による協力的ポーラロンの生成と,それによるダイヤモンド格子振動の増強を示唆する。さらに,NV中心の密度が高すぎると,逆に格子振動の振幅が減少することが判明した。この現象は,最適な密度でのみ協力効果が発揮されることを示すものだという。
この研究成果は,ダイヤモンドを基盤とする量子センサー技術の革新に寄与するものであり,特に40テラヘルツという超高周波数の格子振動を活用した新たな量子センシング技術の開発に向けた道筋を示すもの。研究グループは,将来的にはより高精度な計測技術や新しい材料特性の発見が期待されるとしている。