東北大ら,構造変化を解析する一分子計測技術を開発

東北大学,長岡技術科学大学,東京大学は,単一タンパク質の温度による微細な構造状態の変化を解析する新たな一分子計測技術を開発した(ースリリース)。

一分子計測技術は,タンパク質の構造解析に利用されてきたが,既存技術の多くは標的分子を化学的に修飾する前処理に時間と費用がかかるほか,生体分子の機能に影響を及ぼす可能性が指摘されてきた。

近年,このような課題を解決する解析ツールとして「ナノポア計測」が開発された。この方法では,シリコン材料に直径数nmの微細な孔であるナノポアに印加電場をかけることにより,ナノポア内部に流れ込むイオン量(イオン電流)を測定する。

生体分子がナノポア通過するとイオン電流が遮断されるが,このときの遮断電流を解析することで分子構造を調べることができ,DNA,RNA,タンパク質の配列決定や構造状態,タンパク質間相互作用,DNA/RNA-タンパク質相互作用などの解析ツールとして応用が期待されている。

一般的に,タンパク質の構造特性は,温度依存的な構造変化で評価されているが,これまでにナノポア計測では,これを調査した研究はなかった。そこで,研究では,最適なナノポア加工方法を検討し,感度の高い非対称薄型ナノポアの加工を実現した。

具体的には開発した「レーザーエッチング破断法」を用いて,窒化シリコンナノ薄膜上に直径数nmのナノポアを加工した。この加工では,膜厚50nmの窒化シリコンナノ薄膜に青色レーザーを照射し,同時に電圧を印加することで,窒化シリコンナノ薄膜が照射箇所だけが徐々に薄くなり,最終的に破断現象によりナノポアが作製される。

これにレーザー加熱を用いた温度コントロール技術である「ナノポアサーモスコピー法」を活用して,開発技術を評価する上で最適なタンパク質であるシトクロムcの温度による構造変化を評価した。これは,窒化シリコンナノ薄膜に可視光レーザーを照射すると薄膜が光を吸収する特性を利用することで,レーザー照射領域の温度調整を瞬時に行なうことができる技術。

この技術により,ナノポア近傍の温度を上昇させると,電流遮断が大きくなる様子が観察された。この結果を,分子動力学シミュレーションを用いて,シトクロムcの構造変化を詳細に解析したところ,シトクロムcのαヘリカル構造が加温によって変性することにより,電流遮断が増加することが示された。

この技術は,温度によるタンパク質の構造変化の解析のみならず,研究グループは,翻訳後修飾によるタンパク質,修飾塩基によるDNA・RNA分子などの構造状態の解析にも応用可能だとしている。

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