産業技術総合研究所(産総研)と日亜化学工業は,国際照明委員会が定める白熱電球の標準スペクトルを発光ダイオード(LED)で再現し,既存の光度標準電球を代替する光源を開発した(ニュースリリース)。
照度計の校正は,国家計量標準にトレーサブルに校正された白熱電球である光度標準電球を基準として行なわれている。しかし,白熱電球は世界的に生産されなくなってきており,光度標準電球の枯渇が問題になっている。
この問題を解決するために,産総研は,光度標準電球の代替に必要なイルミナントAのスペクトルを再現する光源の照度値などの開発目標を定めるとともに,LEDにすることの利点を明確化した。
日亜化学工業がイルミナントAのスペクトルを再現するLEDベースの標準光源を試作し,その試作品を産総研が国家計量標準を基に性能評価,および製作にフィードバックを行ないイルミナントA標準LEDの開発を進めた。イルミナントA標準LEDは,先端から内側奥の位置に,イルミナントAのスペクトルを再現するLED素子が設置してある。
今回実装したLED素子は青緑色領域や赤色領域でも発光する蛍光体を加え,各蛍光体の量を最適化することでイルミナントAのスペクトルを再現している。イルミナントA標準LEDは,点灯電流300mA,制御温度90℃の条件で点灯し,照度は1mの距離で約180lxになる。
LED素子の放熱基板には温度制御のためのサーモモジュールと白金測温抵抗体が取り付けてあり,発光部の温度を一定に保つことで,標準光源に必要とされる照度の安定性を実現した。また,周囲温度試験を行ない,23℃を基準とした周囲温度変動に対する照度変動が0.04%/℃以下であることも実証した。
また,イルミナントA標準LEDは組み立て前に実装するLED素子の安定化処理を適切に行なうことで,点灯劣化を約0.02%/20hと,従来の光度標準電球に比べて20分の1程度まで抑制し改善することができた。
さらに,産総研では,複数台の市販照度計に対して,標準光源にイルミナントA標準LEDを用いた場合と光度標準電球を用いた場合の校正結果の比較による妥当性の検証を行ない,校正の繰り返しの再現性の範囲内で2つの校正結果が一致することを示した。
そして,所有している10機種以上の照度計評価データに対して,イルミナントA標準LEDのスペクトルがイルミナントAに完全に一致していないことに起因する誤差の解析を行ない,誤差が大きくなる可能性がある照度計の特性分析法や誤差を最小にするための補正方法を確立した。
研究グループは,現場での標準光源の校正周期の延長や測定精度の向上も期待できるとしている。