NICT,光源一つで大容量コヒーレント光通信に成功

情報通信研究機構(NICT)は,光通信の周波数規格に準拠し,S,C,L波長帯のほぼ全域でコヒーレント光通信を可能とする高品質光コムの生成に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

増大し続ける通信量に対応するため,波長ごとに異なるデータを載せる波長多重や,光経路数の多い新型の光ファイバを用いる空間多重などの光通信技術が開発されている。研究グループは,商用の波長帯(C帯,L帯)とそれ以外の波長帯(O帯,E帯,S帯,U帯)を同時に活用する,合計周波数帯域37THzのマルチバンド波長多重通信をこれまでに実証した。

しかし,従来方式でこれを実用化するには多数の光源を送受信側にそれぞれ用意する必要があり,実験用の光源を用いると既存の設備に収まらない。実際の長距離通信システムで必要とされる,通信規格に準拠し小型にパッケージ化された光源はC,L帯用に限られ,S帯などの光源の商用化が必要だった。

今回,研究グループはS,C,L波長帯のほぼ全域で,光通信の25GHz周波数規格に準拠し,コヒーレント光通信に利用可能な高品質光コムを生成することに世界で初めて成功した。この光コム技術を,高精度な時刻同期や観測等の目的で研究されている基準光配信技術と組み合わせ,650波長のコヒーレント光通信システムを構築した。

送受信ノード間の650波長のコヒーレント光通信チャネルは,基準光配信と光コム技術によって自動的に周波数が同期するようになっているため,個別の光源モジュールの発振周波数の制御が不要となる。

実験では,3モード型マルチコアファイバの1コアのみを用いて構築した通信チャネルで,偏波多重16QAM方式の信号変調とモード多重を行ない,最新の商用光通信装置200台分(1.6Tb/s×200=320Tb/s)に相当する,336Tb/s(200Gb/s×650×3×誤り訂正効率(平均86%程度)=336Tb/s)の伝送容量を達成した。

同じ伝送容量を実現するように従来の方式でコヒーレント光通信システムを設計した場合,O,E,S,C,L,U波長帯において200台分の個別の光源が必要であり,O,E,S,U帯用光源の商用化も必要だったが,今回の実証では個別の光源を用いず,一つだけの光源と光コムを用いて達成できた。

研究グループは,この成果は,S帯通信用光源モジュールの商用化開発・実装を代替し得るもので,商用の波長多重通信の広帯域化を加速し,波長ごとに異なる数百個の通信用光源を用意する必要がなくなるので光通信システムの低コスト化が期待できるとしている。

その他関連ニュース

  • NTTら,IOWNネットワークソリューション提供開始 2024年09月04日
  • NTT,U帯を用い100Tb/s超光増幅中継伝送に成功 2024年09月03日
  • 阪大ら,偏波制御で小型デバイスのTHz通信容量倍増
    阪大ら,偏波制御で小型デバイスのTHz通信容量倍増 2024年08月30日
  • 富士通,IOWNを促進するオープンAPNラボを欧州に 2024年08月30日
  • NTTと中華電信,世界初のIOWN国際間APNを開通 2024年08月30日
  • NTT,光ファイバ伝送路の状態を測定器なしで可視化 2024年08月26日
  • 産総研ら,既存の光度標準電球を代替する光源を開発 2024年08月21日
  • 三菱電機,1.6Tb/s対応受信用チップのサンプル提供 2024年08月20日