分子研,水素発生光触媒活性が最大になる条件を解明

分子科学研究所(分子研)は,リアルタイム質量分析と赤外吸収分光を組み合わせることで,水分解水素発生光触媒反応において界面水の水素結合環境が水素生成に与える影響を分子レベルで解明した(ニュースリリース)。

光触媒反応は光触媒と水の界面で進行する。この界面では様々な向きや結合距離を持つ水分子が複雑な水素結合ネットワークを形成し,その水素結合構造は反応効率に大きな影響を与えることが近年示唆されてきている。

しかし,光触媒反応研究は水中で行なわれることが一般的であり,水中のように大量の水が存在する環境では,反応に直接関わる界面近傍の数分子層の水分子を選択的に計測することが困難だった。

一般の化学反応では,反応物濃度が増加すると反応レートが大きくなることが期待される。しかし,今回の一連の研究において,特に3分子層程度以上の水分子の存在条件では,水分子量の増加においてH2生成レートが減少に転じるという非自明な挙動が様々なTiO2光触媒において共通して観測された。

研究グループは,この謎の挙動の起源を解明するべく,光触媒表面上に水分子が吸着し水素結合のネットワークが次々と形成されていく際の水分子の構造を赤外吸収分光法によって系統的に調査した。

その結果,2分子層までの吸着水は通常の液体水とは異なるスペクトル・水素結合状態を示すのに対し,3分子層からはバルク液体水(通常の液体水)とほぼ同様のスペクトル・水素結合状態を示す水分子が吸着することが明らかになった。

特に不思議な現象として,3分子層目の水分子の吸着が完了し,3分子層以上の水分子の吸着が起きる際に,2分子層までの界面水のスペクトル・水素結合状態が変化し始める現象を捉えた。

3分子層以上の吸着水が存在する場合に誘起される界面水のO−H伸縮振動のスペクトルの変化として具体的に,3分子層以上の水の量が増加するにつれて,界面水の3300~3400cm−1のピーク成分が減少し,3000~3300cm−1付近のピーク成分が増大するという実験結果を得た。

一般に,水分子間の水素結合が強くなる際に水分子のO−H伸縮振動は低波数シフトすることが知られている。したがって,観測された界面水のO−H伸縮振動の低波数シフトは,TiO2光触媒表面近傍の界面水の水素結合ネットワークが,その上層の水分子との水素結合によって,より強固なものに変化していることを示す直接的な証拠となるという。

研究グループは,この研究は,界面水のエンジニアリングの方向性を開拓するものであり,既存の材料開発の限界を突破した高効率触媒の設計指針になるとしている。

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