名古屋大学の研究グループは,酸化グラフェン,窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)の高速・大面積成膜法(自発集積転写法)の開発に成功した(ニュースリリース)。
ナノシートの薄膜製造については,化学気相堆積(CVD)法,ラングミュア・ブロジェット(LB)法などの適用検討されてきたが,高品質な大面積ナノシート膜の成膜技術が未確立なことや,現行の基板転写プロセスに多くの課題があり,実用化,社会実装が立ち遅れている。これらの課題を解決し,ナノシートのデバイス開発,工業化を推進するためには,大面積ナノシート膜を簡便かつ短時間で実現する新プロセスの開発が強く求められていた。
研究グループは,酸化物,酸化グラフェン,窒化ホウ素などのナノシート・インクを利用した新規成膜技術を検討する中で,水面で流氷が並ぶように,ナノシートが自発的に並んで,15秒程度の短時間でナノシート緻密膜が形成するユニークな現象を発見した。さらに,この現象を利用して形成したナノシート緻密膜を基板に転写することで,ナノシートの高速・大面積成膜を実現した。
インクには,ナノシートのコロイド水溶液とエタノールの1:1の混合溶液の利用が好適であり,エタノールの蒸発の際,アルコールの濃度差によりナノシートの対流が生じ,効率的なナノシートの配列制御が実現する。
成膜操作は簡便であり,水面へのインク滴下と基板転写のみで,1分程度の短時間で成膜が完了する。まず,純水を入れたビーカーにナノシートのインクを数滴滴下することで,水面で流氷が並ぶように,容器の外側からナノシートが自発的に並んで,ナノシート緻密膜が形成される。
このように形成したナノシート緻密膜を,金魚すくい,紙すき操作で基板に転写することで,ウエハーサイズ,A4サイズのナノシート膜の成膜を実現できる。原子間力顕微鏡,共焦点レーザー顕微鏡による膜質評価の結果,ナノシートがジグソーパズルのように緻密に配列しており,高品質なナノシート膜の大面積成膜が実現していることが明らかとなった。
上記,水面へのインク滴下と基板転写の1連の操作で,1分程度の短時間でナノシート単層膜の成膜が実現する。この成膜操作を連続して繰り返すことで,単層膜を重ねた多層膜作製も可能であり,ナノシートの厚み単位で膜厚を精密に制御した多層膜作製を実現している。
研究グループは,この技術は,専門的な知識,技術の必要がなく,高品質なナノシート膜の大面積成膜が可能であり,ナノシートの各種デバイスの工業的製造に向けた重要な技術に発展するとしている。