阪大ら,レーザーで中性子を生成し非破壊計測を実証

大阪大学,量子科学技術研究開発機構,北海道大学,日本原子力研究開発機構は,強いレーザー光で中性子を生成し,中性子共鳴吸収を用いて,特定の元素の温度の瞬間的な非破壊計測の原理実証を行なった(ニュースリリース)。

動作中の機器の内部の温度を計測する技術は広く求められており,レーザーやX線を用いた温度計測法が研究されている。しかし,複数の元素から構成された機器の特定の元素の温度を非破壊で計測する確立した技術はなかった。

中性子は物質の透過力が高いため,様々な構造物の内部を分解したり壊したりせずに調べる=非破壊計測に用いられている。しかし,従来の加速器駆動中性子源では,中性子パルス幅が長いために飛行時間計測用ビームラインを10m以上に長くする場合が多く,また,瞬間強度が十分高くなかった。そのため,1データの計測に数分から数時間は必要であり,瞬間的な温度計測はできなかった。

研究グループは,レーザー駆動中性子源で中性子パルスを生成し,飛行時間計測法による中性子共鳴吸収を用いた元素の非破壊分析を行なった。元素(同位体)には特定のエネルギーで中性子を極めて強く吸収する性質(共鳴吸収)があり,このエネルギーは元素の種類に依存する。

そのため,この共鳴吸収が起きたエネルギーから元素の種類を特定できる。試験では,複合材料を模擬するためにタンタルと銀の試料を設置し,1発の中性子パルスを透過させることで,瞬間的に非破壊で元素の種類を識別した。

さらにタンタルのみ温度を上昇させ中性子パルス照射を行なうと,タンタルだけ信号の幅が温度に対応して太くなることを確認した。温度の上昇によってタンタル試料中の原子核の熱振動が激しくなり,ドップラー効果によってタンタルの共鳴吸収の幅が太くなる。室温から摂氏620度の複数の温度で計測し,温度と信号の太さ(共鳴幅)の関係が理論で再現できることを確認した。

この研究の手法では,レーザーを使って短いパルス幅の中性子を生成できるため,1.8mの短い距離でも飛行時間計測法が可能になった。中性子検出器の信号を直接オシロスコープで記録して解析する手法で,それぞれのパルス毎の中性子のエネルギースペクトルを計測した。

このような手法で,高輝度パルスに対して距離を短くすることで,より多くの中性子を一度に計測でき,1千万分の1秒での温度計測に繋がった。

研究グループは,この技術によって,動作中の機器の知りたい部分の瞬間の温度や温度の時間変化を非破壊で計測できるようになり,電池や半導体デバイスなどの異常発生の検出試験や性能向上試験が可能になるとしている。

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