東大,遺伝的アルゴリズムで弾性波の制御構造を設計

東京大学の研究グループは,遺伝的アルゴリズムと呼ばれる逆設計法を利用して,フォノニック結晶を自動的に設計する方法を開発した(ニュースリリース)。

フォノニック結晶と呼ばれる周期構造により,弾性波,すなわち結晶中の振動(フォノン)の伝播特性を制御することができる。しかし,通常のフォノニック結晶は,人間が想像しうる比較的単純な構造になりがちなため,所望の特性を得るための構造最適化の探索範囲が限られたものになる。

研究では,弾性波の伝播のしやすさが方向によって異なる「異方性」を最大化することを目的とした,自動設計アルゴリズムの開発とその有効性の実証を行なった。まず,厚さ200nmのシリコン膜に周期的な孔を形成することで得られる2次元フォノニック結晶構造を設計した。

穴の大きさと形状を変えることで,弾性波の伝播特性が変化するため,強い異方性を実現するために,複数の構造パラメータの組み合わせを広く探索する必要がある。強い異方性,すなわち,一方向に弾性波を伝搬しやすく,それと直行する方向へは伝搬しにくい構造を実現するため,弾性波の伝播を禁止するバンドギャップと呼ばれる周波数帯域を広くする設計を行なった。

このアルゴリズムを用いて異方性を最大化する構造を探索するよう指示する。このアルゴリズムは,適者生存と不適者淘汰のダーウィンの進化論を模倣しているという。

遺伝的アルゴリズムは,フォノニック結晶の初期セットから出発し,交配とランダムに起こる突然変異を通じて,望ましい特性をより強く示す世代へと設計を進化させていく。世代を経て見出された5つの個体の例では,400世代を経過したあたりで,非常に広いバンドギャップを持つフォノニック結晶構造が設計された。

そして,この設計に基づいて得られた構造をシリコン膜で製作し,その構造のフォノン分散をブリルアン散乱測定法で測定した結果,設計通りのフォノン分散が観測され,一方向にのみ大きなバンドギャップが形成されていることを確認した。

これら一連の設計と測定により,開発した方法が所望の特性を最大化する構造を高速かつ自動で見出すことが可能であることを実証した。

この手法は,様々な周波数帯における弾性波やフォノンを用いたデバイスの開発や,将来的には量子科学分野にも応用が期待できる。研究グループは,スマートフォンで多数用いられている表面弾性波素子にも応用が期待でき,通信分野への応用が期待できるとしている。

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