NAOJら,予測を超えた多くの衛星銀河をHSCで発見

国立天文台(NAOJ),東北大学,法政大学,プリンストン大学らは,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラが撮像した最新データの中から,私たちの住む銀河系に付随する衛星銀河を新たに2個発見した(ニュースリリース)。

ダークマターの標準理論では,銀河系のような銀河の周りには千を超えるダークマターの塊と,それに対応する小さな銀河,つまり衛星銀河が存在すると予想されていた。

しかし,これまでの観測では数十個の衛星銀河しか見つかっておらず,この数の食い違いはミッシングサテライト問題と呼ばれてきた。

研究グループは,超広視野焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC)を用いて広い天域を観測する戦略枠プログラム(HSC-SSP)で得られたビッグデータから矮小銀河の探査を進めてきた。そして,今回,最新の公開データから新たに2個の矮小銀河(Virgo IIIとSextans II)を発見した。これらは全て太陽系から30万光年以上離れた距離にあることもわかった。

HSC-SSPの天域には以前から4個の矮小銀河が知られていたので,研究グループによる発見を合わせると,合計で9個の矮小銀河が見つかったことになる。実はこの数は最新の理論で予想される衛星銀河の個数をかなり上回る。

背景として,ミッシングサテライト問題を発端に,矮小銀河の形成を抑える過程の理論研究も展開されてきた。そして,最新の最も確からしい分析では,銀河系に全部で220個程度の衛星銀河があると予測されていた。

これをHSC-SSPの観測天域と観測可能な明るさの限界に適用すると,3個から5個の衛星銀河が見つかることになる。しかし,実際には9個の衛星銀河が見つかったので,銀河系全体に換算すると,少なくとも500個の衛星銀河が存在することになってしまう。今度はミッシングサテライト問題ではなく,衛星銀河が多すぎる問題に直面することになった。

これは,衛星銀河と同程度の大きさのダークマターの塊の中で,一体どのようにして星ができて銀河になるのかという基本的な物理過程の問題と考えられる。

今後はより広い天域でさらに暗い矮小銀河まで探査範囲を広げ,衛星銀河の個数の統計精度を上げていく必要がある。その一つに,建設中のベラ・ルービン天文台の望遠鏡LSSTが行なう大規模探査がある。

望遠鏡のあるチリから観測できる天域全てを探査する観測が来年から始まる予定で,研究グループは,多くの新しい衛星銀河が発見され,ダークマターとその中の銀河形成過程が抱える問題が一挙に解決されることが期待されるとしている。

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