京都大学と物質・材料研究機構は,技術的な困難である光で生成されるモアレ励起子の数を減らす新たな技術を開発し,その量子コヒーレンス時間を測ることに成功した(ニュースリリース)。
量子コンピューターに代表される量子技術では,量子ビットと呼ばれる演算単位を用意する必要がある。そのような量子ビットでは,量子的な波の状態がどれだけの時間維持されているかを示す,量子コヒーレンス時間が重要な量となっている。
近年,わずか原子数層の極めて薄い二次元半導体と呼ばれる次世代ナノ半導体において,この二次元半導体を重ねてできるモアレ干渉縞によって閉じ込められた,電子とホール対(モアレ励起子)を量子ビットとして機能させることが期待されている。
しかし,光による計測では回折限界と呼ばれる制限から十分に光を絞り込むことができず,非常に数多くのモアレ励起子からの信号を観測することしかできなかった。そのためこのような技術的な困難さから,モアレ励起子の量子コヒーレンス時間がどのくらい維持されているかなどに関する情報は,未解明のままだった。
この技術的な困難を克服するため,研究グループは電子線微細加工技術と反応性イオンエッチングを組み合わせることによって,観測するモアレ励起子の数を制限する新しい手法を開発した。それにより,たった一個のモアレ励起子からの発光信号を検出することが可能となり,その発光信号の検出にマイケルソン干渉計を組み合わせることで,一個のモアレ励起子の量子コヒーレンス時間を直接測定することを可能とした。
その結果,一個のモアレ励起子の量子コヒーレンスは,-269度の低温で12ピコ秒以上維持されていることが明らかとなった。これは,母物質である二次元半導体での励起子の量子コヒーレンス時間よりも10倍以上長く,励起子がモアレポテンシャルに閉じ込められることによって,コヒーレンスが失われにくいことがわかった。さらに量子ビートと呼ばれる現象から,二つの異なるモアレに閉じ込められたモアレ励起子間の量子干渉などその間での結合が示唆されているという。
研究グループは,この成果は次世代ナノ半導体において,量子コンピューティングなどの量子技術に向けた第一歩であると考えられるとしている。