公大ら,光渦でねじれた構造をもつ単結晶を印刷

大阪公立大学と千葉大学は,粒径100–300nmの磁性微粒子が高濃度に分散した溶液の液膜に光渦を照射することで,直径数のμmの単結晶を,狙った場所に精度高く印刷することに成功した(ニュースリリース)。

液滴を対象物に直接印刷する手法として,ノズルから微小液滴を吐出して印刷を行なうインクジェット技術がよく知られている。しかし,微粒子が高濃度に分散したコロイド溶液を,ノズルの目詰まりなく印刷することは難しく,新しい印刷技術が求められている。

研究グループは,光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を照射して,パターニングしたい物質を転写する新しい印刷技術[光渦レーザー誘起前方転写法(OV-LIFT)]の開発に取り組んでいる。今回の研究では,磁性ナノ粒子が分散した溶液にOV-LIFTを応用した際,どのように粒子が印刷されるかを調べた。

今回の研究では,フェライトナノ粒子分散液をドナー物質として使用した。通常のレーザー光(ガウスビーム)を照射して印刷を行なうと,ナノ粒子がバラバラに散らばった状態で印刷される。一方,光渦を用いると,散らばったナノ粒子凝集体の中心に直径数μm程度のコアが印刷される。

断面観察によりコアを詳細に調べたところ,コアは微粒子が凝縮しているのではなく,1つの大きな粒子として形成されていることが分かった。また,電子線を照射すると,結晶格子に特徴的な回折パターンが観測された。

このことから,コアはフェライト単結晶であることが明らかになった。さらに,コアを電子顕微鏡で観察したところ,ねじれた構造であることが分かった。光渦の螺旋波面の回転方向を逆にするとコアのねじれ方向が反転することから,照射する光渦によってコアのねじれ方向の制御も可能となっている。

次に,光渦によってフェライトの結晶化が起こるメカニズムを解明するため,ハイスピードカメラを用いて,106画像/秒の速度で液滴の吐出過程を観察した。液膜の変形からバブルのサイズを予測し,液膜内の圧力の時間変化を調べたところ,バブルの膨張と収縮に伴い,最大サブMPaの内向きの圧力がかかることが分かった。

また,温度上昇を予測したところ,瞬間的に1000℃以上の温度に達することが分かった。この高温高圧条件により,フェライトナノ粒子が圧縮されて単結晶になると考えられる。また,単結晶化の過程で光渦の軌道角運動量が大きく寄与し,光渦特有のねじり力が働くことで,ねじれた単結晶が印刷されることが分かった。

研究グループは,この研究成果は,微粒子のパターニングのみならず単結晶合成に利用できる可能性を秘めており,新規材料開発への展開が期待されるとしている。

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