東北大学,ソニーグループ,沖縄県農業研究センターは,ハイパースペクトルカメラ(HSC)により取得した画像から,植物のストレス状況を迅速かつ高精度で推定する手法を開発した(ニュースリリース)。
農作物の光合成はストレスに脆弱で,ストレスの発生に対して迅速な対応が必要とされている。植物のストレス状況をカメラ画像から取得する手法は古くから存在するが,ストレスによって植物の葉が脱落したり,色素含有量が低下したりする様子からストレス状況を評価していた。
このような葉の脱落や色素量の低下が起こってしまった後は収量低下が避けられず,ストレスの被害が顕在化する前に把握することが求められている。
植物は,ストレスにさらされると,ストレスに耐えるために様々な化学反応を行なう。光化学反射指数(Photochemical Reflectance Index:PRI)は,その化学反応の一つによって生じる葉の反射率変化を利用して,植物のストレス状況を評価する指数として提案された。
実際に,一枚の葉を様々な環境条件にさらしてPRIを観測すると,PRIは変化し,高温・低温・乾燥(水不足)などのストレスにさらされた葉と健康な葉を区別することができる。しかし,野外などの農業現場でPRIを観測すると,植物のストレス状況以外の要因の影響を大きく受けるため,実用化には至っていなかった。
研究では,PRIに影響する要因を丹念に検討し,ストレスを評価すべき葉だけを識別,測定の安定性に影響を与える画像中の要素を特定し除外することで,植物のストレス状況を高精度で評価することを目指し,高性能なハイパースペクトルカメラを用いた。
HSCは,一つの画素(ピクセル)内のスペクトルを分析することができる。研究では,画素内のスペクトル分布を解析することで,その画素が撮影している物体が何かを推定し,ストレス状況以外の情報を含むと考えられる画素を除き,ストレス状況の情報のみを含むと考えられる画素の PRI のみを抽出する手法を開発した。
潅水不足による水ストレスにさらしたトマトと通常条件で育成したトマトを比較したところ,画像全体のPRIの値は両者で大きくオーバーラップがあったのに対し,ストレス状況のみを含む画素のPRIの値は両者で分かれ,植物のストレス状況を高精度で評価できることが明らかとなった。
研究グループは今後,この手法をさらにブラッシュアップし,農業現場で利用可能な観測システムを構築し,植物のストレス状況を迅速に検出することを可能にすることを目標に研究を進めていくとしている。