東京理科大学の研究グループは,2種類の配位子を有する環状の亜鉛(Zn)錯体を用いて,頑丈で柔軟な二重壁構造を有する新規結晶性ナノチューブを合成することに成功し,このナノチューブのチャネル内部にテトラチアフルバレン(TTF)やフェロセン(Fc)などの電子ドナー分子を包摂し,固体の電子酸化反応前後での結晶構造変化を明らかにすることで,固体中の電子移動を直接観測することに成功した(ニュースリリース)。
電子移動材料は,電子機器や太陽電池などさまざまなデバイスに活用されており,生活に欠かせない材料の1つ。より高機能な電子移動材料を開発するためには,それらの基礎となる電子移動現象に関する深い理解が必要となる。
しかしながら,今日まで固体の電子移動に関する詳細なメカニズムは十分に明らかにされていなかった。そこで,研究グループは固体の電子移動に関して深い理解を得ることを目的として,チャネル内部の電子や正孔を制御可能かつ頑丈で柔軟なナノチューブの開発とその応用に関する研究を推進してきた。
この研究では,2種類の配位子(LA: アクリジン配位子,LA=O: アクリドン配位子)からなる環状のZn錯体[(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]を合成,結晶化することで,中心部に0.90nm×0.92nmの大きさのチャネルを有する二重壁構造の結晶性ナノチューブ([(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]n)を作製した。
次に,TTF,Fcなどの電子ドナー分子を溶解したアセトニトリル:1,4-ジオキサン=1:2の溶液を調製し,([(Zn2+)4(LA)4(LA=O)4]n)を7日間浸漬した。その結果,浸漬に伴う結晶の形状変化は見られなかったが,色の変化が生じることがわかった。
取り出した結晶をX線構造解析で分析した結果,結晶性ナノチューブのチャネル内部にTTFやFcが包摂されていることが明らかになった。
さらに,電子ドナー分子を包摂したナノチューブ結晶を固体酸化し,反応前後の結晶構造を比較した結果,ナノチューブ自体の構造には配位子が変化する以外違いは観察されなかったが,内部では電子ドナー分子の配向変化,水素結合の形成,ClO4–イオンの移動など,複数の変化が生じていることを明らかにした。
研究グループは,この成果をさらに発展させることにより,固体電子移動のメカニズムの詳細が明らかになり,電子移動材料に関する研究の進展が期待されるとしている。