分子科学研究所(分子研)とソウル国立大学校は,キラルな金ナノ微粒子を近赤外域のフェムト秒パルス光で照射した際に可視域に見られる発光が,微粒子のキラリティ(掌性)に依存して,高い選択性で左回りまたは右回りの円偏光となっていることを見出した(ニュースリリース)。
キラルとは物質の構造が,その鏡写しにした構造と同じにならない性質を表す。光にも円偏光というキラルな電場の構造を持つ光があり,左回りと右回りの円偏光がある。円偏光はキラル物質の微量分析,偽造防止,量子情報,ディスプレーなどへの応用が期待され,円偏光の様々な効率的発生法が研究されている。
その一つが,物質にある波長の光を照射した時に,他の波長の光が発光する現象における円偏光の発生。この方式で円偏光を発生する物質の開発も多くの研究があるが,多くの場合,左回りと右回りの円偏光が混ざって発生してしまい,左と右の円偏光の強度差はごく僅かとなっている。
左右の円偏光の選択性を表す数値として非対称性因子が用いられる。これは,発光の中の左回りと右回りの円偏光の成分の強度の差を,それらの平均で割った数値。純粋な左右の円偏光では±2,無偏光や直線偏光では0になる。従来の円偏光発光物質の多くは,この非対称性因子が0.01程度の桁かそれ以下だった。そのため,発生した円偏光の識別が難しく,実用化が困難だった。
研究グループは,キラルな金ナノ微粒子に近赤外域のフェムト秒パルス光を照射した時に発生する可視域の発光に注目した。入射光はキラルではない直線偏光だが,発光は高い選択性で左右いずれかの円偏光に偏っていることがわかった。
その非対称性因子は0.7程度で,従来の多くの円偏光発光物質(非対称性因子は0.01程度以下)に比べて,桁違いに円偏光の純度が高くなっていた。また理論計算を併用した解析によって,高い選択性が得られる理由を明らかにした。
研究グループは,今後は様々な波長で効率的な円偏光を発生する物質やデバイスの開発や,円偏光を用いた偽造防止や量子情報などへの応用展開が期待されるとしている。