東京大学とJAXAは,2つのX線観測装置(広範囲観測を得意とする全天X線監視装置「MAXI」,詳細観測を得意とする高精度X線望遠鏡 「NICER」)を組み合わせ,いつどこで発生するかわからないフレア現象を初期段階で発見し,詳細観測を開始することに成功した(ニュースリリース)。
恒星フレアは,恒星の外層大気で磁場に蓄積されたエネルギーが突発的に解放される爆発現象。太陽フレアが周辺に与える影響は甚大で,過去には停電が発生した例があるが,このような巨大フレアは発生頻度が低く,太陽の観測のみでリスクを定量化するのは現実的ではない。
そこで研究グループは,宇宙に数多ある恒星を観測することにした。フレアが発生する現場は数百万度以上の高温プラズマが存在するため,X線で明るく見える。しかし現存するX線観測衛星単一では,多数天体の常時監視と個別天体の詳細観測の両立が難しく,これまでの観測は長期モニターで受動的にフレアの発生を待つという効率面で劣る方法が主流だった。
そこで研究グループは,国際宇宙ステーション(ISS)に搭載するMAXIとNICERを連携させることで,恒星フレアなどの突発的なX線増光を起こした天体を素早く捕捉するシステム「MANGA(MAXI and NICER Ground Alert)」を開発した。
このシステムにより,RS CVn型連星であるおひつじ座UXのフレア初期の増光をMAXIにて検知し,そのわずか89分後にNICERによる詳細追観測に成功した。
このフレアの規模は過去最大の太陽フレアと比較しても100万倍近く大きいものだった。フレアによるエネルギー解放直後のX線エネルギースペクトルのモデリング(熱制動放射による連続成分と脱励起による輝線成分の分析)から,プラズマ温度とX線光度の変化には時間差が生じていることがわかり,フレアループ内のプラズマ形成の時期を捉えていることが示唆された。また,半ループ長を太陽半径の約4倍(太陽フレア典型スケールの約100倍)と見積もった。
輝線成分の情報では,太陽以外の恒星フレア現象で初となる衝突電離平衡から乖離したプラズマの観測的証拠を探した。鉄の24階電離イオン,25階電離イオンからの輝線放射強度比の時間的進化を求めて理論予想値と比較することで,フレア発生直後のプラズマは電離非平衡状態で説明可能であることを示した。
今回の観測データでは,電離平衡状態の解を棄却するまでは至らなかったが,研究グループは今後,X線分光撮像衛星「XRISM」等の他のX線観測衛星との同時観測を行なうことで,電離非平衡プラズマの初検出を目指すとしている。