東京大学,物質・材料研究機構,米ジョージア工科大学,米コロラド大学は,還元剤と分子性カチオンが協奏的に作用する独自の電子ドーピング技術を開発した(ニュースリリース)。
有機半導体はインクジェットなどの低コスト印刷によって,フレキシブルなセンサー,電子回路,太陽電池などの光・電子デバイスを製造できる次世代のエレクトロニクス材料として注目されている。高度なデバイスの作製には,半導体に負電荷である電子を導入するn型,正電荷であるホールを導入するp型のドーピング制御が求められる。
しかしながら,有機半導体のドーピング,特に電子ドーピングでは安定性が低いことを課題としていた。研究グループは,これまでにイオン交換を用いたp型ホールドーピングの安定化を報告しているが,このアプローチが電子ドーピングに有効であるかは不明瞭だった。
従来の手法では,還元剤であるコバルトセンなどを有機半導体薄膜に導入することで電子ドーピングする。しかし,材料の不安定性に由来してコバルトセンの場合には大気下では1分程度で失活してしまう。今回開発した手法では還元剤として作用するコバルトセンに加えて,安定な分子性カチオンを含む塩を溶かした溶液を用いてドーピング処理を行なった。
有機半導体としてはπ共役を有する高分子を用いた。この手法では,まず,コバルトセンから有機半導体に電子が移動する還元反応が生じ,負に帯電した有機半導体とコバルトセンに由来するカチオンがイオン対を形成する。続いて,コバルトセン由来のカチオンは添加した他の安定な分子性カチオンに自発的に交換される。これにより,安定な分子性カチオンを有機半導体薄膜に導入する電子ドーピングを実現した。
この手法により多様な分子性カチオンを導入することが可能になり,この特徴を活かしてドーピング状態の安定性を向上させる材料を探索した。その結果,安定性を著しく向上させる分子性カチオンdMesIM+を発見した。ドーピングされた薄膜の光吸収を大気下で繰り返し測定したところ,従来の手法よりもドーピング状態の寿命が100倍程度も長くなることが分かった。
この結果,この手法が強力なドーピングであり,多くの有機半導体に適用可能であることがわかった。今後,この手法による高性能な有機半導体デバイスの開発が進展すると期待できるとしている。