早稲田大学,東北大学,物質・材料研究機構は,オングストロームビーム電子回折法を用いることで,ナノスケール柱状構造がほぼ等間隔に並んで形成される局所秩序構造を,一見不規則な構造を持つとされる,もっとも一般的なガラス材料であるシリカ(SiO2)ガラスの中に見い出した(ニュースリリース)。
SiO2は,Oが四面体の頂点を共有して連結することによりリング構造を作り,そのリングサイズの分布に特徴を持つ。このようなガラスにX線や中性子線などの波長の短い波を当てると,波が原子配列によって干渉されて特徴的なパターンが出る。
特に,原子間のスケールよりも大きい周期に対応する「FSDP」と呼ばれる回折ピークの出現の具体的な起源については不明な点が残っていた。
この研究では,ガラスにおける擬格子面の正体を明らかにするため,シリカガラスで見られるFSDPに着目し,この回折ピークをシリカガラスの局所領域(1nm以下の領域)から得る目的で,開発してきたオングストロームビーム電子回折法を用いた。
今回,エネルギーフィルターを導入することで,局所領域からのFSDPを明瞭に撮影することに成功した。また,シミュレーションによって構築された構造モデルからも,オングストロームビーム電子回折の理論計算結果を用いて,この実験結果を再現する局所構造を抽出することが可能となった。
抽出した局所構造に高速フーリエ変換を適用することにより,構造中に存在する擬周期が原子の柱状構造の配列から生じることが明らかとなった。この柱状構造はブリッジの役割を果たす原子によってお互い接続されることで,おおよそ等間隔に並んで擬格子面を構成していることが特徴であり,これによりFSDPが生じるものと推察された。
また,柱状構造が取り囲むように柱状の空隙も形成されており,明瞭な密度ゆらぎの存在が示唆される。さらに,この密度ゆらぎを特徴づける複数の周期が混在し,複雑な階層的構造が形成されていることもわかった。
一方,ガラス中の柱状構造は,結晶には存在しないリング構造である5員環や7員環を多く含んでいる。これにより構造の乱れが導入され,結晶のように広範囲にわたって周期構造が続かない原因になると考えられるという。
この研究では,ガラス構造中の局所秩序をナノスケール柱状構造の局所的な配列として捉えられることを示している。ナノスケール柱状構造の配列が様々な長さの密度揺らぎを作ることから,平均的な周期から大きく逸脱した領域はガラス構造のある種の欠陥として理解することができる。このような欠陥の理解は材料特性を向上させる上で役立つことが期待されるとしている。