名古屋大学と東海大学は,トモグラフィ解析と統計的手法を組み合わせた新しいプラズマ計測手法を開発し,核融合非接触ダイバータプラズマの4次元的な時空間挙動を明らかにした(ニュースリリース)。
磁場閉じ込め核融合発電炉では,既存の装置をはるかに上回る高熱流プラズマが流出することから,壁前面で熱流束を十分に低減する手法を確立することが不可欠となっている。
現在,プラズマ-中性ガス相互作用によりプラズマを空間中で消す非接触ダイバータが最も期待されている。近年の研究で,この非接触ダイバータ運転時に,磁力線を横切る間欠的なプラズマ輸送が増幅して現れることが種々の実験装置で観測されている。この輸送は壁面上のプラズマ分布を広げ,局所的な熱負荷のさらなる減少に寄与することから,その物理理解が求められている。
理解機構の解明には,様々な実験条件における広域的なプラズマ輸送を計測し,輸送特性の各種パラメータへの依存性を調べることが有効。ここで,高速カメラは,時空間の挙動を一度に取得可能な強力な計測器として知られているが,得られる信号は原理的に視線方向の積分値となる。
このような線積分信号から局所値の空間分布を求める手法として,医療用CTにも用いられるトモグラフィ解析が有名。しかし一般に,同手法の適用には複数の角度から対象物を測定する必要があり,金属製の真空容器に囲まれたプラズマへの適用には一定の制限がある。
研究グループは,名古屋大学所有の直線プラズマ装置NAGDIS-IIにおいて,非接触ダイバータ環境を模擬し,軸方向に並んだ複数窓を同時に視野内に収めた高アスペクト比での高速カメラ計測を行なった。静電プローブを併用した条件付き平均計測を行なうことで,輸送発生前後における典型的な発光挙動を取得した。
この研究で対象とするプラズマは周方向に回転しており,短時間であれば剛体的に回転していることがわかっている。そのため,軸方向の各位置で,短時間の剛体回転を仮定した移動トモグラフィ解析を条件付き平均信号に適用した。
これにより,一般的なトモグラフィと異なり,固定された高速カメラ1台を用いた極めて簡便な計測に基づいて,磁場垂直面・軸・時間の4次元的な時空間輸送挙動を抽出することに成功した。プラズマ放出が起こる前には,磁場垂直面内にひずんだ回転構造が前駆体として現れ,その後,径方向に引きはがされて円弧形状を形成しつつ輸送される様子が確認された。
研究グループは,この研究結果は,核融合装置壁の熱負荷のさらなる低減につながるもので,より高熱流のプラズマのほか,宇宙機スラスタなどにも適用できるとしている。