分子科学研究所(分子研)と大阪大学は,世界初となる2つのビームラインからの放射光を利用できる光電子運動量顕微鏡実験ステーションを分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)で開発した(ニュースリリース)。
物性をつかさどる物質の電子のふるまいを詳細に理解する方法として,これまでの研究では,光電子分光が用いられてきた。UVSORでは,最先端の光電子分光測定装置である「光電子運動量顕微鏡」が2020年に導入され,マイクロメートルスケールでの微小な領域での電子のふるまいを観察することが可能になった。
研究では,UVSORにおいて世界初となる2つのビームラインからの放射光(真空紫外光と軟X線)を同じ試料に当てることができる光電子運動量顕微鏡実験ステーションを開発した。
既存の真空紫外光ビームラインBL7Uに分岐を新設することで,軟X線ビームラインBL6Uから光が試料表面に斜入射で利用する光電子運動量顕微鏡実験ステーションで,BL7Uからの光を試料表面の真正面から照射(直入射)・利用できるようになった。
2つのビームラインの併用化により,①斜入射軟X線による高感度元素選択的測定,②直入射真空紫外光による高対称測定を自在に選択・同時利用した光電子分光実験が可能になった。この光源の自由度を駆使することで,電子のふるまいの多角的な解析を実現した。
特に,現在利用できる直入射配置での光電子分光は,世界中でもUVSORのこの装置のみであり,開発が期待されてきた技術だという。
直入射配置での,対称性と光の偏光依存性を利用した遷移行列要素解析により,価電子帯電子の原子軌道情報への直接アクセスが可能となった。また,光電子運動量顕微鏡では,飛び出すすべての光電子を分析できるので,原子軌道の完全解析に近づいた。この究では,Au(111)表面の価電子帯分散に遷移行列要素解析を適用した。
電子状態研究の進展は,物性物理学,分子科学,材料科学の発展にとどまらず,物質の基本的性質や新規機能の開発に直結する重要な知見に結びつく。研究グループは,未来のナノテクノロジーや量子デバイスの開発に貢献し,エネルギー,情報通信,環境など幅広い分野での21世紀を先導する技術革新を促進することが期待されるとしている。