東京農工大学の研究グループは,柔らかい材料内に外から力が加わった場合に内部でどのように力が分布するかを3次元的に測定するための光学的手法を提案した(ニュースリリース)。
柔らかい材料に外から力(応力)を加えた場合に,内部でどのように応力が発生するかは,生体医工学や再生医療などの分野で極めて重要となる。
例えば生体医工学では,柔らかい脳動脈瘤周りの応力分布を解明し,破裂のメカニズムを理解することが求められている。また,注射による痛みの評価など,低侵襲な治療の実現に向けて,人体のような柔らかい材料内部の力の分布の理解が重要となっている。
この研究では,材料内の応力分布を推定するための一般的な手法である光弾性トモグラフィーを用いた。材料内部の応力状態によって変化する透過光の偏光情報(位相差と方位角)を,高速度偏光カメラを用いて計測し,材料の内部応力状態を推定した。
この手法は,材料の光学的異方性である複屈折の原理に基づいている。モデルケースとして,柔らかいゲルのブロックに固体球を静かに押し付け,三次元応力を計測した。計測結果と理論的な予測結果と良好な一致を示し,この手法によって正確に材料内部の応力が計測できることを確かめた。
次に,ゲルブロックに固体球を衝突させ,動的な計測を行なった。その結果,衝突によって短時間に変化する応力場も定量的に測定することに成功した。この技術により,瞬間的な力を受けて大きく変形する柔らかい材料内の応力も,正確に計測できることが示された。
この研究は,柔らかい材料内の動的な応力場を測定するための光学的手法を提供するもの。研究グループは,この成果により,剛性球の衝撃だけでなく,液体ジェットの衝撃や脈動によって引き起こされる材料内の応力分布など,材料内の応力分布の理解や,生体医工学や細胞印刷などの応用分野での応力評価が向上する可能性があるとしている。