東京大学の研究グループは,等方的な相互作用を持つガラス形成物質とコロイドゲルについて,数値シミュレーションを用い,非晶質固体であるガラスとゲルについて,その力学特性の温度,経過時間依存性について詳細な研究を行ない,その背後にある物理的メカニズムを解明した(ニュースリリース)。
非晶質固体であるガラスとゲルは,結晶のような規則構造を持たないにもかかわらず剛性を示し,またその非平衡性に起因したゆっくりとした性質の時間変化(エージング現象)など,結晶には見られない特性を示す。しかし,ガラスとゲルでみられるこれらの現象の基本的な違いは未解明だった。
興味深い基本的な力学特性の一つに,液体と固体の区別において重要な,ずり変形に関するずり弾性率がある。ガラスとゲルは,結晶とは異なり,熱平衡状態から遠く離れた非平衡状態であり,その特性は時間とともにゆっくりと変化する。
非晶質固体内部の粒子の動きは一般的に,エージング中に減速する。これは粒子が動ける領域(配置空間)の減少を反映していると考えられ,粒子運動の抑制はずり弾性率の増加をもたらすと予想される。
このようなエージングに伴う硬化現象は,ガラスでは観察されるが,ゲルでは,多くのレオロジー実験が異なる振る舞いを示している。すなわち,エージング中にずり弾性率が最初は徐々に増加するが,最終的には減少する。この現象は,重力の影響を受けたゲルがある時間経過ののちに崩壊する遅延崩壊と関連していると考えられるという。
研究グループは,ガラスとゲルにおける温度,経過時間が弾性特性にどのような影響を与えるかを明らかにし,その基本的なメカニズムを解明した。粒子の運動を解析した結果,粒子運動に対する制約は,ゲルではずりおよび体積弾性率に同じように影響するが,ガラスではずり弾性率のみに影響を与える。
ガラスはエイジングすると硬くなる傾向が持続するが,ゲルは最初に硬くなり,その後に柔らかくなる。構造,粒子運動,弾性の相互の関係を解明することで,これらの違いは,ガラスでは構造の秩序化,ゲルでは界面の削減による自由エネルギーの最小化メカニズムに起因することが明らかになった。
これらの発見は,ガラスとゲルの弾性の起源に迫るとともに,その経時変化(エージング)過程における複雑で対照的な挙動を基礎的レベルで明らかにするもの。また,有限温度で非晶質材料の弾性特性を理解する際に,静的および動的な要因の両方を考慮する重要性を明らかにした。
これらの研究成果は,非晶質材料の力学設計に重要な示唆を与えると期待されるとしている。