山梨大学と東京慈恵会医科大学は,光で細胞の脂質シグナルを自在に操る技術「光駆動型ホスホリパーゼCβ(opto-PLCβ)」を共同開発した(ニュースリリース)。
人間の体は,ホルモンや神経伝達物質などの化学物質を使って細胞間で情報を伝達している。これらの化学物質は「ファーストメッセンジャー」と呼ばれ,細胞膜にある受容体に結合すると,細胞内に「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる別の化学物質を生成する。セカンドメッセンジャーは,細胞内の様々な機能を制御する。
光遺伝学を使ってセカンドメッセンジャーを制御することは可能だが,これまで,PIP2と呼ばれる脂質からIP3とDAGと呼ばれるセカンドメッセンジャーを生成する酵素「ホスホリパーゼ C」を直接光で制御する方法は存在しなかった。
研究グループは,ホスホリパーゼCβ3(PLCβ3)の酵素活性ドメインと,これを細胞膜に固定する足場タンパク質(iLID)を組み合わせ「opto-PLCβ」を開発した。青色光を当てると,opto-PLCβが活性化し,細胞膜上のPIP2をIP3とDAGに分解する。
また,研究グループは,optoPLCβを発現させた細胞に青色光を当て,PIP2とDAGの変化を観察したところ,青色光によってPIP2が減少すると同時にDAGが増加することを可視化した。
更に,研究グループは,恐怖記憶の形成に重要な扁桃体基底外側核にopto-PLCβを発現させたマウスに青色光を当てた。その結果,opto-PLCβを発現したマウスは,opto-PLCβを発現させなかったマウスよりも恐怖記憶の形成が強化された。
opto-PLCβは,記憶形成に関わる脳内のシナプス可塑性や,神経細胞の興奮伝達を光で制御できるため,記憶形成のメカニズム解明や,神経疾患の治療法開発に役立つことが期待されるという。
さらにopto-PLCβは,脳・神経科学だけでなく,様々な分野で応用が期待される。研究グループは,例えば,光によって癌細胞の増殖を抑制したり,光で遺伝子発現を制御したりすることが可能になるかもしれないとしている。