大阪大学の研究グループは,太陽光照射下,NO3–排水を原料としてNH3を合成する光触媒技術を開発した(ニュースリリース)。
NH3は化学肥料の原料として重要な化学物質であり,世界の食糧生産の根幹を担っている。また,NH3は近年,再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリアとしても注目されている。しかし,従来の工業プロセス(ハーバー・ボッシュ法)によるNH3合成では,H2とN2を非常に高い温度と圧力下(450°C以上,200気圧以上)で反応させる必要があった。
NO3–は工業排水に多量に含まれる環境汚染物質。強酸性排水であるため,従来は,中和した後,微生物などによりN2へ還元することにより無害化して環境中に排出されている。すなわち,窒素資源を無駄なく循環利用するには,NO3–を有用資源に変換する必要がある。
したがって,再生可能エネルギーを用いて排水中のNO3–をNH3に変換できれば,排水の無害化・再資源化を行なうとともに,新たなNH3合成技術となる。
光触媒反応では,太陽光エネルギーにより水とNO3–からNH3を製造する(HNO3+H2O→NH3+2O2)ことが原理的には可能となっている。この反応を進行させるためには,光励起により生成したホールによる水の四電子酸化(2H2O→O2+4H++4e–)と,励起電子によるNO3–の八電子還元(NO3–+9H++8e–→ NH3+3H2O)を進める必要がある。
しかし,これらの多電子反応を進めることは難しく,これまでこの反応を進める反応系は開発されていなかった。
研究グループでは,天然に存在する鉄さびの一種であるβ-オキシ水酸化鉄(β-FeOOH(Cl))に表面酸素欠陥(OVs)を形成させたβ-FeOOH(Cl)-OVsを光触媒として用いた。触媒粉末を,塩化物イオン(Cl–)とともにNO3–排水に加えて太陽光を照射することにより,水を還元剤としてほぼ100%の選択率でNO3–をNH3に変換する光触媒技術を開発した。
研究グループは,この方針にもとづけば,排水からNH3を合成することが可能となり,排水の無害化と再資源化を行なう社会実装が期待できるとしている。