東京慈恵会医科大学と山梨大学は,プレシナプス局在型の光活性化アデニル酸シクラーゼ (bPAC)を開発した(ニュースリリース)。
細胞内シグナル伝達系はさまざまな細胞で重要な役割を担う。中枢神経系では,多様な脳機能のために細胞内シグナル伝達系が時間的・空間的に緻密に制御されている。
特にシナプス可塑性は,脳の柔軟な機能を支える基礎過程であり,例えばプレシナプスの環状アデノシン一リン酸(cAMP)は,神経伝達物質の放出を促進することでシナプス可塑性を制御する。高い極性をもつ神経細胞では細胞内シグナル伝達系を特定のマイクロドメインで制御することが重要となっている。
そこで研究グループは,細胞内シグナル伝達系の光遺伝学ツールである光活性化アデニル酸シクラーゼ (bPAC)に着目し,bPACをプレシナプスに局在化させる手法の開発に取り組んだ。
bPACをプレシナプスに局在化させるために,プレシナプス分子であるsynapsin1aを融合させたbPAC-Syn1aを作製したところ,プレシナプス終末に高い選択性で局在化することを発見した。
さらに,赤色光で活性化される,長波長シフト変異型光活性化陽イオンチャネルのC1ChrimsonSAと,bPAC-Syn1a(青色光で活性化)を組み合わせることで,赤色光でシナプス活動を,青色光でcAMP上昇をそれぞれ誘導する実験系を構築し,素早く顕著なシナプス増強を全光学的に誘導する技術開発に成功した。
このシナプス増強は神経伝達物質の放出確率の増加を伴ったことから,プレシナプス性のメカニズムによって誘導されることを明らかにした。また,bPAC-Syn1aを脳内に発現させたマウスに光刺激を与えることで行動変容が生じたことから,bPAC-Syn1aがinvivoでの細胞内シグナル伝達系の光操作に有であることを実証した。
研究グループは,今回開発した技術は,シナプス制御と脳機能との関係解明,神経精神疾患の病態理解や治療法確立などに役立つことが期待されるとしている。