大阪大学,名古屋大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センターは,X線自由電子レーザー(XFEL)の極限的7nmのスポット集光を実現し,1022 W/cm2のピーク強度を達成した(ニュースリリース)。
これまでに超高精度なX線ミラーの作製法は確立されてきたが,集光状態の不安定性に大きな課題があり,理論的には達成可能なはずの10nmを下回るような集光サイズの実現には至っていなかった。
研究グループでは,X線領域にて安定なミラー型レンズとして作用する新規X線集光光学系を開発した。これは,鉛直・水平の両方向において凹面と凸面組み合わせのX線ミラーペアから構成されており,適切な光学設計によりSACLAのXFELが7nmのサイズまで集光可能になる。
これまでの研究開発で培われた精密なモノづくり技術を結集して新たなXFEL 7nm集光システムを開発し,詳細なX線波動場の評価を行なったところ7nm×7nmの集光サイズが得られ,極限的なXFELの集光に成功したことが示された。
複数のXFELショットごとの集光径評価結果からは,数百ショットにわたって極めて安定な7nm以下のスポット集光が実現されている様子が分かった。
XFELの高強度集光において,既存の技術を用いる限りは集光サイズの限界が5nm程度とされており,安定性と実用性を考慮すると今回達成された7nm集光はまさに極限的だとする。集光されたXFELのピーク強度は1.45×1022W/cm2に到達し,従来の値を100倍以上更新する世界最高X線強度を達成した。
さらに,実現した超高強度7nm集光XFELを金属Cr箔試料に照射した。X線が物質に照射されると,原子中の電子が励起された後にX線発光を起こす。1022W/cm2のピーク強度を持つXFELによって金属中の電子を励起した際に得られる発光スペクトルの計測結果は,通常の低強度でのX線蛍光発光とは大きく異なり,多くの発光ピークが得られた。
中でもライマン(Ly)線と呼ばれる,電子が残り1つだけのイオンの生成を表すスペクトルが得られ,強烈な電子励起が起きていることが分かった。このLy線は最も高強度な焦点面において発光強度が弱まっている様子が観測された。この結果は,束縛電子が全ていなくなったために発光が起きなくなった,すなわち固体密度の原子核状態の生成が示唆された。
研究グループは,この研究によって実現された超高強度のXFELビームを用いることで宇宙物理,高エネルギー物理や量子光学などの基礎物理分野において,未だ観察されていないさまざまな物理現象の発見が期待されるとしている。