北大ら,光合成細菌の生きた化石を湖から発見

北海道大学と加ウォータールー大学は,光合成進化のミッシングリンクに相当する新奇性の高い細菌を発見した(ニュースリリース)。

現代の酸素非発生型光合成細菌は,光化学系Iあるいは光化学系IIのどちらか一つによって光合成を行なうため,太古の光合成細菌も同様に1種類の光化学系を使っていたと考えられている。太古の光合成細菌は初期地球における光合成の主役だったが,光合成装置の種類やその進化は未だに研究者を悩ませている。

この研究以前,少なくとも八つの現存する光合成細菌のグループが発見されていたが,その多くが使っている光化学系やアンテナ複合体の組み合わせは,単純な進化仮説で説明できるものではなかった。

研究グループは,「Candidatus Chlorohelix allophototropha」と名付けた細菌を,カナダ北部の湖から培養した。研究開始当初,光合成ができる珍しい細菌の培養を目指して,採水した湖水に光を照射して培養を行なった。

しかし,数週間経ってもはっきりとした結果は得られなかった。実験終了寸前で,研究グループは,微生物増殖を示した1本の培養瓶に注目した。その後の共同研究によって,その培養瓶中に含まれている主要な光合成細菌の分離培養に成功した。そして,微生物ゲノム解析,顕微鏡法,及び分光学的手法によってその詳細な特徴を明らかにした。

この研究で分離培養に成功した細菌はクロロフレキサス門に属しており,クロロソームなどの光合成に必要な装置を持っていた。これは他のクロロフレキサス門の光合成細菌と共通する。

ところが,クロロフレキサス門の既知の全ての光合成細菌は光化学系IIを使っているのに対して,この新しい細菌は光化学系Iを使っていることが判明した。

この光化学系Iは今までに知られていなかった系統群を代表するものであるため,この細菌は既知の全ての光合成生物と一線を画する存在だとする。

光化学系Iと光化学系IIの両方を含むことが判明したクロロフレキサス門において,いかにしてクロロソームが獲得されたのか,さらなる詳細なゲノム解析によって,この細菌が光合成進化において今まで前例のなかった進化イベントを経たことが判明した。

すなわち,クロロフレキサス門の細菌は光化学系の反応中心を柔軟に変化させながら進化しつつ,クロロソームの様な集光装置をそのまま維持して進化したと考えられる。この発見によって,研究グループはクロロフレキサス門における光合成進化仮説の矛盾を解消し,この進化を説明する二つの新しいモデルを提案した。

研究グループは,この発見によって光合成進化の研究に新たな展開が生まれるとしている。

その他関連ニュース

  • 京大ら,ヘテロサーキュレンの合成と発光挙動を解明 2024年11月21日
  • 東北大ら,光合成を最適化するイオン輸送体を解明 2024年11月12日
  • 【解説】動物細胞ながら,光合成もできるプラニマル細胞とは 2024年11月11日
  • 静岡大ら,珪藻光化学のタンパク質間相互作用を解明 2024年11月07日
  • 東工大,分子の自発配向を利用した分極薄膜を開発 2024年10月31日
  • 帝京大ら,緑藻の群体増殖には光照射が必須と解明 2024年10月04日
  • 早大ら,光合成微生物で培養肉向け細胞培養機構開発 2024年10月04日
  • 東薬大,シアノバクテリアのストレス順応応答を発見 2024年10月03日