物質・材料研究機構(NIMS)と東京理科大学は,層状化合物二セレン化ニオブ(NbSe2)が極低温で示す電子密度の周期パターンに,鱗文様のような互い違いの三角形構造が織り込まれていることを発見した(ニュースリリース)。
NbSe2は超伝導性を示す層状化合物。量子現象の基礎研究で頻繁に利用されるため,その極低温物性を正確に理解することは重要となっている。とくに,極低温で超伝導と電荷密度波が共存する特徴があり,同居する2つの異なる状態がどのように相互作用しているか関心が集まっている。
その解明のためには電荷密度波の構造を正確に知ることが基本だとしている。これまでの研究では,NbSe2の電荷密度波に星型のパターンが繰り返される領域とクローバー型のパターンが繰り返される領域とが混在する様子が観察されていた。しかし,これら2種類のパターンを数値的に正確に識別する手法が無かったために,分布の規則が分かっていなかった。
研究グループは,走査型トンネル顕微鏡(STM)という原子レベルの解像度で結晶表面を観察できる装置を使って,NbSe2の電荷密度波の高解像度データを取得した。
NbSe2の単結晶を超高真空装置内でへき開することでセレン原子が並ぶ清浄な表面を露出させ,4.5ケルビン(約−269℃)の極低温まで冷却し,100㎚×100㎚の視野を2048×2048ピクセルの解像度で撮像した。
このデータに対して,電荷密度波の波面と原子位置との間のずれに着目した数値処理を行なうことで,星型のパターンとクローバー型のパターンの分布を曖昧さなく可視化することに成功した。
その結果,2種類のパターンがそれぞれ三角形の分域を作っており,それらが互い違いに並んで,織物の柄でいう鱗文様のように敷き詰められていることがわかった。
研究グループは,電荷密度波を正確に捉える新しい解析手法を提案し,その結果を説明可能な理論と結びつけたことにより,NbSe2や関連物質における電荷密度波に関して実験と理論がより協調した研究が進むとしている。
このことは,遷移金属ダイカルコゲナイドを基板や素材として利用する量子材料研究を基礎から支えることにもなる。また,今回の成果をもとにNbSe2で電荷密度波と超伝導状態がどのように作用しているかの解明が進めば,銅酸化物温超伝導体など他の超伝導体でも両者の関係を紐解いていく糸口となることが期待されるとしている。