北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究グループは,電子を輸送する高分子-金属ナノ粒子の複合組織を設計した(ニュースリリース)。
研究グループはこれまでに,持続可能社会の実現に向けて人工光合成の高分子によるシステム構築に挑戦してきた。
実際の光合成を行なう葉緑体が持つ電子伝達組織,および電子移動に関するマーカス理論に学び,今回,2nm以内の電子輸送を能動的に起こす系を高分子の精密な合成を通して構築した。まず,三元系のヘテロ高分子を精密に合成し,これが結合した触媒ナノ粒子を作製した。
この高分子は,相転移を起こす部位,ナノ粒子と結合する部位,そして電子を授受する部位から構成される。ここで,高分子中のビオロゲン分子が電子を得ると,触媒の白金ナノ粒子まで迅速に運び水素生成する仕組み。
プロセスとしては,I)電子を得たビオロゲン分子近傍の高分子が収縮する。II)この高分子の一部はナノ粒子表面に固定されているため,電子を得たビオロゲンをナノ粒子表面へ触手のように引き寄せられる。III)ビオロゲンが電子をナノ粒子に渡した後,この高分子は伸長して元に戻る。
他方,このナノ粒子は水素生成の触媒として働く。このI~IIIがサイクリックに進む。従来の研究では,拡散律速に依存した受動的な電子移動が介在してしまっていたが,今回のシステムでは,高分子がナノ粒子表面に固定されたことでその能動的な電子輸送が終始可能となった。
2nm以内での電子移動において,著しく高い有効性が認められることは,理論だけでなく実証実験でも報告されていたが,この距離を制御する能動系はこれまで無かった。今回,高分子が触手の様に電子を捉えて触媒が電子を食べるような,アクティブなナノシステムが提案された。
研究グループは,このようなナノシステムは,可視光エネルギーによる水の分解や水素生成の触媒作用のみならず,電池など電気化学反応を伴う系や人工酵素の系に展開することで,様々なエネルギー変換システムに有用と期待されるとしている。