理化学研究所(理研)と東京農工大学は,均一な熱輻射環境下における熱電発電において,極薄の構造でありながら高い熱輻射吸収特性を示すメタマテリアルが,最も効果的に熱電発電を駆動させることを実験的に明らかにした(ニュースリリース)。
車やパソコンなどの電子機器,道路や建物表層などに滞留する熱エネルギーなど未利用熱は,日本が輸入した石油や天然ガスなどの一次エネルギーの約6割を占めており,我々は本来のエネルギーの4割しか有効的に活用できていないことになる。
そこで熱を電気に変換する熱電変換素子が,この未利用熱の再利用に期待されているが,その原理は,熱電変換素子内の温度勾配が電圧に変換されるゼーベック効果に基づいているため,熱電変換素子内の温度勾配が消失してしまう,温水中や道路表層などの均一な熱輻射環境では機能しないという課題があった。
一方メタマテリアルは周囲環境の熱輻射をより大きな光吸収率と吸収断面積で吸収・濃縮してそれを熱電変換素子に与えるため,均一な熱輻射環境においても熱電発電を駆動することができる。今回,研究グループは,メタマテリアル (構造厚さ0.31μm)の比較として広帯域吸収体であるカーボンブラック膜(構造厚さ60μm)を熱電変換素子に適用し,それぞれの発電特性を評価した。
その結果,メタマテリアルは,広帯域吸収特性を示すカーボンブラックよりも低い熱輻射吸収特性を示すにも関わらず,メタマテリアル熱電素子はカーボンブラック熱電素子よりも高い熱電特性を示した。これは,メタマテリアルに吸収された熱輻射エネルギーが,メタマテリアルの薄い構造により効率的に熱電変換素子に伝搬したことを示唆している。
すなわち,熱電変換システム全体で考えると,単に光吸収率の高低だけでなく,吸収で得られた熱を効率良く熱電素子に伝導させる能力も重要であり,そのためにはより薄い構造で高い光吸収効率を実現することが鍵となる。
実際,メタマテリアルのように入射波長よりも1/10程度薄いにも関わらず高効率に光を吸収する材料は自然界には存在せず,極めて薄い構造と,高い熱輻射吸収特性という2つの要求を同時に満たすことができるのは人工材料であるメタマテリアルのみ。
このように,今回の研究によって均一な熱輻射環境における熱電発電を高効率に駆動するためには,メタマテリアル特有の性質が不可欠であることが確認された。
研究グループは,今回の知見がより高効率な熱電変換デバイスを実現するための設計指針として活用され,将来的に脱炭素社会の実現につながるとしている。