産業技術総合研究所(産総研),九州大学,日東電工,二次元材料研究所,中央大学,大阪大学は,二次元材料に特化した紫外線で粘着力が低下する機能性テープを開発することに成功した(ニュースリリース)。
二次元材料の多くは成長基板からシリコンやフレキシブル基板上に移す,転写というプロセスが使われるが,この転写の際に二次元材料が破れたり,保護膜の高分子が残って特性低下につながったりすることなどが知られている。
また,保護膜の除去には有機溶媒が必要なためフレキシブル基板には使えない,転写に長時間かかる,高度な転写技術が必要といった課題が多くあった。
研究グループは,さまざまな機能性テープを検討した結果,紫外光を照射すると粘着力が1/10程度に小さくなるテープを用いることで,こうした問題を解決し,高効率なグラフェンの転写を実現した。UV光でグラフェンと粘着剤のファンデルワールス力を制御して転写につなげたことになる。
今回,人工知能を駆使して研究開発を行ない,最高で99%の転写率を達成した。さらに,従来の高分子転写よりも欠陥や残渣が少なく,かつ転写を短時間で行なうこともできるようになった。
UVテープによるグラフェンは従来法に比べると破れや残渣が大幅に少なく,かつ表面が平滑であることが確認できた。さらに,グラフェンのトランジスタを作って,グラフェンの中を流れるキャリア移動度を測定したところ,UVテープの転写膜でより高い移動度分布を得ることができた。
また,テープの粘着剤などを最適化して,半導体の二次元材料であるTMDや絶縁性のhBNも転写できるようにした。
代表的なTMDである二硫化モリブデン(MoS2)を転写した結果,三角形のグレインと全面膜が,ともにきれいに転写できているのが分かった。また,このMoS2で良好なトランジスタ動作を確認し,テープ転写でも十分な特性が得られることを確認した。
UVテープはある程度の硬さがあるので,はさみなどでカットして取り扱うことができる。リリース時に有機溶媒を使う必要がなく,かつ柔軟性もあるため,さまざまな素材や形状のものに転写ができる。
応用としてテラヘルツ波を使ったセンサーを作製した。これは,プラスチック基板上に,UVテープで転写したグラフェンに電極を取り付けたもの。この上に,ナイフと紙を中に入れた封筒を置き,その上からTHz波を照射してグラフェンに生じる電圧を測定した。
そうするとナイフがはっきりと識別できるようになった。さらに,よく見ると紙片も封筒の中に入っていることが確認できた。
研究グループは,この研究は半導体を含む次世代産業の創出に大きく貢献するとしている。