京大ら,時間多重化された円偏光情報の読出しに成功

京都大学,熊本大学,仏ボルドー大学は,時間変化する円偏光スペクトルの生成とその読み出しに成功した(ニュースリリース)。

円偏光の光強度,波形,偏光情報(右 or 左)に加えて,発光寿命に基づく時間情報といったパラメータを自在に制御する光情報多重化技術は,光記録や偽造防止技術として注目を集める一方,既存の方法では各パラメータを独立に制御することは困難だった。

研究グループは,発光寿命が異なる2種類の直線偏光発光(LPL)フィルムとλ/4位相差フィルムを組み合わせた多層型発光式円偏光コンバータを作製し,パルス励起光の照射で生成される円偏光スペクトルの時間変化を検出することにより,時間多重化された円偏光情報の読み出しを試みた。

具体的には,まず,蛍光寿命が短い発光体として,発光性ポリマーであるpoly[2-methoxy-5-(2-ethylhexyloxy)-1,4-phenylenevinylene] (MEH-PPV)を,蛍光寿命が長い発光体として発光性一次元ナノ構造体であるCdSe/CdSコアシェル型量子ロッド(QR)を,それぞれ選定した。

発光体とエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)をトルエン中で混合し,キャスト法にて複合フィルムを得た。得られた複合フィルムを延伸することにより,MEH-PPVおよびQRを含むLPLフィルムを作製した。

LPLMEH-PPVフィルムの極大発光波長586nmにおける発光の直線偏光度(PLP-lum)は0.88と非常に大きい値を示し,蛍光寿命は0.3nsだった。また,LPLQRフィルムの極大発光波長607nmにおける発光のPLP-lumは0.68であり,蛍光寿命はLPLMEH-PPVフィルムのおよそ12nsと40倍長い蛍光寿命を示した。

両フィルムを用いてLPLMEH-PPV-LPLQR-λ/4の順に積層することにより,偏光軸の角度が異なる4種類の多層型発光式円偏光コンバータを作製した。470nmの非偏光定常光を照射すると,全発光はほぼ同じスペクトルパターンにも関わらず,左右の円偏光成分がそれぞれ異なるスペクトルパターンをつくり出すことを確認した。

次に,円偏光セットアップを備えた蛍光寿命測定装置を用いて,これらの多層型発光式円偏光コンバータに470nmの非偏光パルス光を照射した際の円偏光スペクトルの時間変化を測定することにより,円偏光スペクトル形状が観測時間によって変化していく様子を捉えることに成功した。

研究グループは,LPL材料の選択により,作り出したい円偏光スペクトルを自由に設計できるようになることから,今後重要な技術になるとしている。

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