理化学研究所,東京大学,中国華中科技大学は,超薄型有機太陽電池の耐水性を改善し,水中でも駆動可能な素子の開発に成功した(ニュースリリース)。
超薄型有機太陽電池は,その柔軟性と軽量な性質により,ウェアラブルデバイスの潜在的な電源として期待されている。しかし、従来の超薄型有機太陽電池は水に弱いという問題があった。
研究グループでもこれまで超薄型有機太陽電池の耐水性を向上させるため,封止膜を利用した有機太陽電池の新たな構造などを研究開発してきた。しかし,水分の影響により有機太陽電池の材料や界面が不可逆的に劣化するにもかかわらず,超薄型有機太陽電池の柔軟性を保持したまま完全に防水できる封止膜技術はまだなく,構造を根本的に改善する必要があった。
研究グループは,陽極/発電層界面において銀を酸化させて,陽極と発電層との界面に酸化銀を備える構成とすることで,発電層から陽極に正孔を効率的に輸送できる「正孔輸送層フリー」の有機太陽電池の作製に成功した。
発電層に陽極となる銀を直接積層して,発電層と陽極との間に正孔輸送層を含まない有機太陽電池は,発電層の正孔がうまく陽極に抽出されないため,発電効率は著しく低くなる。
この有機太陽電池を大気中で24時間加熱処理することにより,陽極と発電層との界面において銀を酸化させた。陽極と発電層との間の酸化銀が正孔輸送層の役割を果たして効率的に正孔を抽出するため,有機太陽電池のエネルギー変換効率は格段に向上した。この研究でエネルギー変換効率は0.2%から14.3%に改善された。
典型的な正孔輸送層である酸化モリブデンと銀を備えた有機太陽電池および酸化銀と銀とを備えた有機太陽電池のそれぞれについて,大気中で陽極と発電層との引っ張り剥離試験を行なった。酸化モリブデンの有機太陽電池は弱い接着力のために,水中に浸漬させることで酸化モリブデンと発電層とが容易に剥離してしまう。
一方,この研究で作製した酸化銀の有機太陽電池は水中に浸漬させても酸化銀と発電層との剥離が全く観察されず,耐水性が改善されていることが明らかになった。
作製した厚さ3μmの超薄型有機太陽電池は,水に4時間浸漬した後もエネルギー変換効率の保持率は89%,水中で30%の圧縮歪みと復元を繰り返す機械的な変形を300回加えた後も,エネルギー変換効率の保持率は96%であった。さらに,水中で60分以上の連続駆動を達成した。
研究グループは,耐水性と柔軟性を備えた超薄型有機太陽電池は,衣服に貼り付けることができる環境エネルギー電源として,ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルに向けた長期安定電源応用の未来に大きく貢献するとしている。