岡山大学,東北大学,高輝度光科学研究センター,兵庫県立大学は,光化学系IIの結晶に可視光を当てて反応を開始させた後に,X線自由電子レーザー施設SACLAのフェムト秒X線を用いて,光化学系IIのゆがんだイス型の触媒が水分子を取り込み,酸素分子生成の準備が完了するまでの一連の動きの立体構造をナノ秒からミリ秒の時間スケールで捉えた(ニュースリリース)。
光化学系IIは,光エネルギーを利用して非常に安定な水分子から電子と水素イオンを取り出す反応を温和な条件下で触媒する巨大な膜タンパク質複合体。研究グループは,水分子を分解する触媒部分の正体はマンガン(Mn4CaO5)クラスターで“ゆがんだイス”の形をしていることを報告している。
光化学系IIが反応を触媒する詳細な仕組みの解明は,「人工光合成」の開発につながると期待されているが,これまでの解析は触媒に水分子が取り込まれた後の準安定な姿を捉えたものであり,その途中経過はわからなかった。
研究グループは,時間分解シリアルフェムト秒結晶構造解析法を微小なサイズの光化学系IIの結晶に適用し,ポンプ-プローブ実験を行なった。光化学系IIの結晶に可視光のレーザー閃光を1~2発照射すると,水を分解する反応サイクルがS1状態からS2~S3状態と呼ばれる状態に進む。
ここでレーザー閃光に引き続いてナノ秒からミリ秒の一定時間経過後にX線自由電子レーザーを照射すれば,次の状態に進行している瞬間に相当する動的構造のX線データを取得することができる。
今回の実験では,光化学系IIが光を吸収して,次の状態の形成が始まる20ナノ秒から,その形成が終結する5ミリ秒までの時点の立体構造を6つ(20ns,200ns,1μs,30μs,200μs,5ms)捉えた。
さらにS1状態からS2状態に進む時の構造変化と,S2状態からS3状態に進む時の構造変化をそれぞれ解析することで,反応サイクルのS状態の違いによる影響も調べた。この実験では全部で14個の立体構造のスナップショットを得て解析した。
これにより,巨大な光化学系IIの内部では,電子の流れに呼応して,タンパク質,水分子,集光色素などがオーケストラのように協奏的に働き,ドミノ倒し的に相互に作用を伝えることで,水の移動や取り込み,水素イオンの排出が進行する様子が観測された。
また,これらの働きによって運動性の高くなった水分子が,ゆがんだイスの中のカルシウムイオンに過渡的に結合した後に,触媒内部へと取り込まれていく様子が初めて観測された。研究グループは,人工光合成の技術を開発するための重要な知見を与える成果だとしている。