東京大学の研究グループは,ポルフィリンと分子状タングステン酸化物を組み合わせることで,活性酸素を効率良く安定に生成できる分子光触媒の開発に成功した(ニュースリリース)。
ヘモグロビンやクロロフィルの基本骨格であり,可視光を効率的に吸収することができるポルフィリンは,光のエネルギーを利用して活性酸素を生成することができるため,化学合成を行なう光触媒反応や光がん治療などに応用されている。しかし,生成した活性酸素と反応することによってポルフィリン自身が分解してしまうことが課題だった。
研究グループは,ポルフィリンと分子状タングステン酸化物を組み合わせた新しい分子光触媒を開発し,その構造を単結晶X線構造解析によって明らかにした。
2つのポルフィリンは,それぞれ4つの剛直な分子状タングステン酸化物と結合することで,その平面状の分子構造が並行に重なる位置に強く固定されている。また,このように向き合って配置されたポルフィリンの間に相互作用がはたらき,構造を安定化させる効果がある。
この分子光触媒は,可視光を吸収しそのエネルギーを利用して,空気中に豊富に存在する酸素分子を効率良く一重項酸素に変換できる。また,一重項酸素を生成する効率は,ポルフィリンを単独で光触媒として使用した場合より高いことが分かった。
この一重項酸素を効率よく生成できる特性を利用することで,分子光触媒は,可視光を照射した際にさまざまな有機化合物の酸化反応に優れた活性を示した。
例えば,光触媒作用の項目に示すα-テルピネンの酸化反応では,0.003%の分子光触媒を用いるだけで,わずか数分間で反応が完了した。また,この分子光触媒は,他にもさまざまな有機化合物の酸化反応に対して優れた触媒活性を示すことが分かった。
さらに,ポルフィリンを単独で光触媒として使用すると,反応後には90%以上のポルフィリンが分解した一方,今回開発した分子光触媒は,同じ反応条件でほとんど分解せず,耐久性が大きく向上していることが分かった。
量子化学計算によって,今回開発した分子光触媒では,ポルフィリンがタングステン酸化物構造によって位置や形を頑強に固定されること,かつポルフィリン分子間に相互作用がはたらくことで,ポルフィリンの分子構造が歪みにくくなり,一重項酸素による分解が抑制されたことが分かった。
研究グループは,この技術は資源循環を志向した触媒反応や環境に優しい化学反応の実現,エネルギー変換材料,光機能材料,医療,分子エレクトロニクスなど幅広い応用が期待されるとしている。