北大ら,赤色発光分子を活用し脳腫瘍の悪性度を解析

北海道大学,京都大学,山形大学は,赤色発光分子を用いたCancer GPS(がん悪性度検査システム)を開発し,光を用いたヒト脳腫瘍の悪性度解析に成功した(ニュースリリース)。

「がん」は,1981年以来,日本において死因第1位となっており,公衆衛生上の深刻な問題となっている。成功裏な治療の可能性を高めるためには,早期がん診断の普及が不可欠。バイオイメージングプローブは,従来の侵襲手術と比較して体への負担を最小限に抑え,さらに腫瘍細胞の位置と形を画像で可視化するため,注目を集めている。発光分子を活用したバイオイメージングプローブは,腫瘍(特に早期がん)の悪性度診断において期待されている。

研究グループはこれまで,発光性レアアース分子の開発を行なってきた。中でも研究グループが開発したユウロピウム(Eu)分子は強い赤色発光を示す。さらに,ユウロピウム分子の発光物性(発光速度定数)は分子周りの環境に極めて敏感であることが知られている。

この研究では水溶性のユウロピウム分子から構成されるがん悪性度検査システム(Cancer GradeProbing System, Cancer GPS)を構築し,腫瘍悪性度の検出を行なった。腫瘍細胞におけるCancer GPSの赤色発光を測定し,特有の発光速度定数の解析から,悪性度がグレードII(良性,NHA-TS),グレードIII(準悪性,NHA-TSR),グレードIV(悪性,NHA-TSRA)までの脳腫瘍グリオーマモデル細胞を解析した。

Cancer GPSは水溶液で分子集合体を形成する。この集合体は細胞培地中でも分解せずに安定であり,ヒト脳腫瘍グリオーマモデル細胞の表面に取り付いて,細胞内にCancer GPSが侵入する。

Cancer GPSが腫瘍細胞に入り込むと,その発光速度定数は腫瘍細胞の悪性度に応じて変動する。3時間の注射後,グレードII,グレードIII,グレードIVの腫瘍細胞において,それぞれ4%,7%,及び 27%の発光速度定数の増加が確認された。

悪性度が高い腫瘍細胞は,Cancer GPS によって大きな影響を受け,その発光速度定数の増加が促進され,悪性度を評価することに成功した。この研究で開発したCancer GPSが,世界で初めて腫瘍モデル細胞の悪性度を数値で明示的に可視化した。

Cancer GPSは,腫瘍の増殖プロセスにより数時間にわたる持続的な診断が可能であり,in vivoでがんの動的な観察と評価ができるため,持続可能な開発目標(SDGs)を満たす次世代の医学研究技術への応用展開が期待される。

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